炭素価格(カーボンプライシング)について

  • 温暖化対策・脱炭素
炭素価格(カーボンプライシング)について

カーボンプライシングの手法

 カーボンプライシングとは、各主体(人及び企業などの組織)の経済合理性を前提に
CO₂に価格を付け、安価な排出削減策を選択しやすくすることでCO₂削減を目指す取り組みです。大別して、下記の2つの手法があります。

  1. 1.価格アプローチ
    政府が炭素価格を設定し、その価格を基に各排出主体が行動した結果として排出量が決まります。価格が固定される一方で、排出量削減には不確実性があるという特徴があります。具体的な制度として、排出したCO₂の量に応じて課税する「炭素税」が挙げられます。
  2. 2.数量アプローチ
    排出枠が市場で売買され、その結果として排出枠の市場価格が決まります。排出枠の上限は政府が設定し、各排出主体は市場価格を参照しながら自らの排出量と排出売買量を決定します。排出総量が固定される一方、排出枠価格が変動するという、価格アプローチとは逆の特徴があります。具体的な制度として、排出量取引制度(キャップ&トレード型)やカーボンクレジットが挙げられます。

炭素税

 日本においては現在、「地球温暖化対策のための税」(温対税)の段階的施行により、化石燃料ごと(①原油、石油製品、②LPG、LNG等、③石炭)のCO₂排出原単位を用いて、それぞれの税負担がCO₂排出量1トン当たり289円 と等しくなるよう、キロリットルまたはトンの、単位量当たり税率が設定されています。

 温対税の他、エネルギー効率向上を目的とした揮発油税や石油石炭税などの各種エネルギー課税もありますが、エネルギー課税は、エネルギー効率向上を主目的として設けられています。そのため、CO₂排出1トン当たりではなく1ℓ当たりの単価として課税されており、CO₂削減に寄与するものの炭素比例の負担とはなっていません。そのため、炭素税が明示的な炭素価格と言われるのに対し、エネルギー課税は暗示的炭素価格とも言われています。温対税は、全化石燃料を課税対象としている現行の石油石炭税の徴税スキームを活用し、石油石炭税に上記の税率を上乗せして課税されています。

なお、GHG(温室効果ガス)排出量は、下記の式で算定されます。

GHG排出量 = 活動量 × エネルギー効率 × 排出係数

 例えば、エネルギー効率が大幅に改善されたガソリン車が開発されたとしても、エネルギー源を基に設定されている排出係数が高い分、GHG排出量の削減効果は限定的です。エネルギー課税はエネルギー効率のみを改善し、排出係数の低い燃料を用いる車種を選択する誘因にはならないため、GHG削減の観点からは非効率であるとして、諸外国から評価されにくいという指摘もあります。

排出量取引制度

 設定された排出枠を超えた超過排出量と、オフセット可能なクレジットを取引により相殺できる制度で、「キャップ&トレード」とも言われています。超過排出量の定義やオフセット可能なクレジットの種類は、設定主体により異なります。具体的には、有償/無償の違いや、無償の場合には、望ましい水準に設定する「ベンチマーク方式」、過去実績に応じて設定する「グランドファザリング方式」などの選択肢があります。  

 日本でも現在、一部自治体で導入されており、例えば東京都は、オフィスビル等を対象とする一定の事業者に排出上限量を割り当て、超過削減量はクレジットとして相対もしくは入札による取引が行われています。

カーボンクレジット

 排出量見通し(ベースライン排出量)に対し、実際の排出量との差分の測定・報告・検証(MRV)を経て、国や企業との間で取引できるように認証したものを「カーボンクレジット」と呼びます。キャップ&トレードに対し、「ベースライン&クレジット」とも呼ばれています。

 日本においては現在、省エネ設備導入や再生可能エネルギー活用によるCO₂等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO₂等の吸収量を、国がクレジットとして認証する「J-クレジット制度」があります。J-クレジットは、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)に基づく排出量報告制度の排出量・排出係数調整に活用されているほか、一部のJ-クレジットに関しては、CDP質問書(注1)、SBT(注2)、RE100(注3)など国際的イニシアティブにおける報告に活用されています。

(注1)
CDP(一般社団法人 CDP Worldwide-Japan)は、英国で設立された国際環境NGOであり、ESG投資を行う機関投資家等の要請を受けて環境に関する質問書を企業に送付し、得られた回答をもとに企業のスコアリングを行っています。

(注2)
SBT(Science Based Targets)は、「Science Based Targets」の頭文字をとったもので、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標です。CDP等の4つの機関が共同で運営しており、一定の要件を満たしている企業にSBT認証を行っています。

(注3)
RE100(CLIMATE GROUP「RE100」)は、「Renewable Energy 100%」の略称で、企業の事業活動のエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブであり、RE100に加盟するためには、事業運営を100%再生可能エネルギーで行うことを宣言する必要があります。

その他の類似制度

 日本には現在、カーボンクレジットと類似する制度として、政府が管理する非化石証書や、民間事業者により管理されるグリーン電力証書があります。これらは、再生可能エネルギー由来の電力量や熱量を、KWhやKJ単位で認証する(カーボンクレジットはt-CO₂単位)ものです。

 これらの証書は、Scope2排出量(公益事業者から購入したエネルギーの生成による間接的なGHG排出量)を、証書の購入によって上書きする用途に使用されています。なお、Scope1は自社が直接排出するGHG排出量、Scope3はサプライチェーンのGHG排出量に分類されます。

 証書は、電力等の属性を付け替えているのみであり、カーボンクレジットのようにオフセットには活用できません。

日本におけるカーボンプライシング

 「GX実現に向けた基本方針」(以下、「GX基本方針」)が2023年2月に閣議決定され、日本においてもカーボンプライシングを本格導入する方針が打ち出されました(※出典:経済産業省「GX実現に向けた基本方針」)。具体的には、排出量取引制度に該当する「GX-ETS」と、炭素税に該当する「炭素に対する賦課金」という、2つの取り組みの実施です。

 「GX-ETS」は、3つのフェーズからなるロードマップが示されており、試行段階にあたる第1フェーズは2023年度から始まります。ただし、EUの排出量取引制度である「EU-ETS」とは異なり、第1フェーズは自主参加型で、排出枠も参加企業が自主的に目標設定することになっています。2026年度からの第2フェーズも、「更なる参加率向上に向けた方策」の推進なので、現時点では義務化確定というわけではありません。ただし、2033年度からの第3フェーズでは、排出量の多い発電事業者に対して排出枠を無償で割り当て、段階的に無償枠を減少させて有償化する方針が示されています。

 また、2028年度から導入される予定の炭素に対する賦課金について、その水準については言及されていません。日本のカーボンプライシングに関して、詳細は今後明らかになっていくと思われますが、GX基本方針に沿って急速に整備が進められ、日本の脱炭素化が進展することが期待されています。

 なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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執筆者

  • 吉澤 一子

    東京共同会計事務所 事業開発企画室 
    シニアアドバイザー
    公認会計士 

    金融商品や株式報酬に関する会計(日本基準/IFRS)アドバイザリー、カーボンクレジットや非財務情報などに従事している。

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