不動産STOとは?
不動産証券化やブロックチェーンの活用について解説

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不動産STOとは?<br>不動産証券化やブロックチェーンの活用について解説

 数年前から、新たなデジタル金融商品である「不動産セキュリティ・トークン」と、これを流通させることで資金調達を行う仕組みが注目を集めています。不動産のセキュリティ・トークン(Security Token)を発行して市場で売り出す(Offering)資金調達方法なので、頭文字を取って「不動産STO」と呼ばれています。ブロックチェーン技術による高いセキュリティ性、取引・決済のしやすさ、投資単位の小口化などから、今後ますます注目度が高まるであろう不動産STOについて、商品概要や仕組み、メリットなどについて解説します。不動産証券化による資金調達や、不動産STOについて知りたいとお考えの方は必読です。

「不動産STO」とはどのような資金調達方法なのか?

 まず、セキュリティ・トークン(以下「ST」)とは、株券や企業が発行する社債券など有価証券の権利移転を、ブロックチェーン技術などを使って管理し、オンラインで取引を完結できるようにした「デジタル証券」のことです。そして不動産STOは、不動産ファンドの投資持分をSTとして発行し、ブロックチェーン上で自由に売買できるように目指した新しい資金調達方法です。2020年5月に施行された改正金融商品取引法において、「電子記録移転有価証券表示権利等」として、取り扱いが明確化されました。

 これにより、従来の個人向け不動産投資商品の障壁であった小口化のコスト低減や、
比較的小規模な物件における公募の投資商品の組成が可能となりました。 ブロックチェーンとは、データを複数のコンピュータに分散させて管理する技術で、データの改ざんが非常に困難なことで知られています。現在日本国内で組成されている不動産STの場合、多くが複数企業によるコンソーシアムが管理・運営する「コンソーシアム型ブロックチェーン」や、特定組織に所属する参加者のコンピュータにのみデータを分散させる「プライベート型ブロックチェーン」が用いられるため、一般的なパブリック型ブロックチェーンより、さらに高いセキュリティ性が期待できます。

 デジタル証券化することで、ネット上での流通がしやすくなる点、不動産の投資単位を小口化できるので、投資しやすくなる点も、不動産STOの大きな特徴と言えるでしょう。

不動産STOのメリットとは?

 国内のほとんどの証券取引所は、平日のみの取引であり、取引時間も決まっています。その点、STの取引は、財産的価値の移転記録がSTのプラットフォーム上で電子的に書き換えられるため、投資家がSTプラットフォームにアクセスできる環境さえ整っていれば、いつでも取引が可能です。

 決済も、証券取引所の場合は売買成立から数日後ですが、STは即時決済が可能。不動産STOにおいても、将来的には24時間・365日の取引が可能になることが期待されています。 STの仕組みを用いることで手続きが自動化・簡略化されるため、取引全体のコストを抑えやすくなります。その分、高額な不動産でも小口化しやすくなり、個人投資家による少額投資が可能になること、二次市場の確立や投資への参加・離脱が手軽になることも、不動産STOのメリットです。実際、マンションや旅館などの大型不動産に比較的少額で投資できる不動産STOが、すでに開発・発行されています。

 法律に準拠した金融商品である点も、投資家側から見た不動産STOのメリットです。ブロックチェーン技術は現在、様々なサービスに活用されていますが、その中でもSTは、株券をはじめとする有価証券と同様、金融商品取引法の規制下で適切に設計された金融商品です。しかも、発行されたSTはブロックチェーンのスマートコントラクト(規定のルールによって自動的実行されるプログラム)によって売買されるので、法的にもシステム的にも安全性が非常に高いと見られています。

参考:一般社団法人日本STO協会 「STOの紹介」

不動産STOの今後の可能性は?

 従来、個人向け投資商品としての不動産 の小口化は、手続きの煩雑さや管理コストの面から、あまり積極的には行われていませんでした。その点、不動産STOは手続きが自動化・簡略化されるため、小口化が容易です。高額な不動産の小口化が進むことで 少額投資も可能になり、一部の富裕層しか投資できなかったような高額不動産へも投資ができるようになります。これまで、現物不動産の市場には参入していなかった事業者が、不動産STOによって新規参入するケースも増えると予想され、市場の活性化が見込まれています。

 多くの投資家に注目されていることから取引所開設の動きも進んでおり、2021年4月にはネット証券大手のSBIグループと三井住友フィナンシャルグループが、「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」というPTS(Proprietary Trading System/私設取引所)を設立 しました。また、2021年3月には、三菱UFJ信託銀行よりSTの発行・管理を実現するブロックチェーン基盤として「Progmat(プログマ)」のサービスインが行われ、2021年6月には、野村ホールディングスと野村総合研究所のジョイントベンチャーである
BOOSTRYが、STを取り扱うためのブロックチェーンネットワーク「ibet for Finネットワーク」の運営をスタートさせました。

 こうした動きが加速することで不動産STOのインフラがさらに整備され、国内のST取引が急速に活性化すると期待されています。

STOが不動産業界へ与える影響は?

 不動産分野のSTOが活発化することによって、不動産業界においても様々な変化が起きることが予想されています。STOが、不動産業界に与える主な影響について解説します。

●高額不動産への投資が可能になる

前項でも述べたとおり、STの仕組みを活用することで高額不動産でも小口化しやすくなるため、従来は一部の投資家に限られていた高額不動産に対して、より多くの人が投資できるようになります。 その分、不動産による資金調達が行いやすくなり、不動産の投資市場が活発化することが予測されています。

●国境を越えた取引が行いやすくなる

ST化した不動産をデジタル証券取引所に上場することで、海外の投資家を呼び込みやすくなります。
実際、東海東京証券は2021年11月、シンガポールのデジタル証券取引所である「ADDX」と共同でST事業を開始しました。 投資募集を終了した不動産はADDXに上場し、アジア圏の富裕層や機関投資家の投資を呼び込む計画です。

●非金銭リターンをサービスとして提供できる

不動産投資におけるリターンは、収益を配当金として分配する形式が一般的でした。しかし不動産をST化することにより、一定以上の金額の投資家に対しては非金銭リターン、例えば宿泊サービスなどを、リターンとして提供できる可能性があります。 特に、リゾートホテルや人気旅館などは、そうしたサービスをリターンとして提供することで、不動産投資をさらに活発化できる可能性が高いと思われます。

●多彩な不動産への投資が可能になる

不動産STOを通じて、リゾート施設やアミューズメントパークなどの大型不動産に対しても、投資が可能になります。また、収益性が低い文化施設などでも、非金銭リターンをサービスとして提供することによって、資金調達が行いやすくなります。不動産投資のあり方が、不動産STOによって様変わりする可能性があるのです。

出典:野村証券「不動産セキュリティ・トークン」

不動産STOの事例について

 日本では、2021年8月にケネディクス株式会社をオリジネーター、発行者を三菱UFJ信託銀行とした国内初の公募の不動産STOとして、「ケネディクス・リアルティ・トークン渋谷神南」が発行されました。この不動産STOの特徴のひとつとして、これまで一般的な不動産証券化スキームで用いられていなかった受益証券発行信託という器を活用していることが挙げられます。その後、2023年6月時点では同様の器を利用した不動産STが
13件、発行又は公表されています。STOの対象となる不動産の種類もマンションや物流施設に始まり、温泉施設やホテルなど多岐にわたり、不動産STOは今後も新たなプレイヤーを呼び込むことにより、更なる増加が予想されます。

 不動産STOで受益証券発行信託が活用されている理由はいくつかありますが、
税務の観点からは

①一定の要件を満たすことにより信託レベルで課税が行われないこと

②個人投資家における配当受領時などの所得区分が配当所得等として分離課税となること

の2点が大きな要因となります。

 また、不動産を裏付け資産としたSTではGK-TKスキームでの匿名組合出資持分をST化している案件もあり、こちらは金商法上二項有価証券とされている匿名組合出資持分が ST化することによって電子記録移転権利として、一項有価証券に分類されるのが特徴と言えます。

まとめ

 本稿では、STの仕組みと不動産投資とを組み合わせることで、新しい形態の不動産投資を可能にする不動産STOについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか。

 これまでの不動産証券化で受益証券発行信託を活用したストラクチャーがほとんどないため、案件組成まではアセットマネージャーや信託受託者、証券会社、弁護士事務所などの各関係者が何度も検討を重ねたうえで商品化されています。 また、受益証券発行信託ならではの会計・税務論点も多くあるため、これまでの不動産証券化スキームとは違った観点での検討も必要となります。

 東京共同会計事務所はこれまで多くの不動産STOでファンドの期中管理業務や会計・税務意見書の作成、有価証券届出書や価格証明に関するAUP業務など、幅広くサポートさせて頂いておりますので、不動産STOに興味がある方は、お気軽にお問合せ下さい。

 なお、本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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監修者

  • 新海 大輔

    東京共同会計事務所 フィナンシャル・ソリューション部
    税理士

    2010年より証券化に関する会計・税務業務に従事。また、大手税理士法人で金融機関を中心に税務業務などに従事した経験をもち、昨今では数多くのSTOに関する期中管理やアドバイザリー業務に携わっている。

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