東京共同会計事務 所では、コーポレートファイナンスのプラクティスでM&Aに関するFA、財務・税務DD、企業価値算定(Valuation)、PMI等に関する業務を数多く手掛けております。また、ファンド管理サービスとして投資事業有限責任組合(LPS)の設立/解散/清算、適格機関投資家等特例業務の届出等法務対応、キャピタルコール計算、分配計算、各種通知発信、キャッシュマネジメント、重要物保管、会計記帳、投資家レポーティングとGP会社へのバックオフィスサポート業務を公認会計士/税理士/司法書士/金融機関出身の専門家を中心に幅広く提供しております。本記事ではプライベートエクイティに携わっている企業様に対して投資事業有限責任組合に関する基本的な特徴、制度改正が進んでいくトレンドについてご紹介させて頂きます。
投資事業有限責任組合(LPS)とは、事業者の多様な資金調達方法の確保や信用創造機能の強化のために創設された、法人格のない組織形態です。
将来上場を目指すベンチャー企業は、株式、社債、新株予約権、将来株式に転換できる転換社債型新株予約権付社債等の発行により資金調達を行うことが一般的です。
しかし、ベンチャー企業は事業リスクが高く、確実に上場できる保証もないため、機関投資家等の投資家は投資事業有限責任組合(ファンド)を組成し、それぞれが出資額に応じて株式や社債の持分を保有してリスクの低減を図る間接投資の手法が多く取られております。
LPS制度が導入されるまでの従来のファンドでは、業務執行に関わらない投資家も無限責任を負い、出資額以上にリスクを負うこととなっていたため、ベンチャー企業に円滑に資金が供給できないという課題がありました。そういった課題を受けて発足された制度が投資事業有限責任組合(LPS)です。
以下、投資事業有限責任組合の代表的な特徴について解説します。
投資事業有限責任組合は、出資をする投資家のうち、業務を執行する無限責任組合員(General Partner (GP))と有限責任組合員(Limited Partner (LP))を決め、LP投資家は自らの出資額以上の責任を負わないという形態の組合です。
無限責任組合員であるGP(資産運用者)は自己の出資金に加え、投資家から募った出資金を基に投資・運用を行い、自己の出資金の範囲にとどまらず事業から生じた責任を負います。
投資事業有限責任組合は民法上の任意組合に比べ、投資対象が限定されている等の制限があるものの、投資家である有限責任組合員の責任は自らの出資額までと限定されているため、投資を行いやすいというメリットがあります。
投資事業有限責任組合は、パススルー課税(構成員課税)となる点が大きな特徴で、投資事業有限責任組合契約に定めた損益分配割合に従って各組合員に損益が帰属されるため、組合に対する課税は発生せず、各組合員においてそれぞれに帰属した損益に対し課税が行われる制度となっています。
LPSを通じて、法人が投資をしている場合は法人税の対象となり、個人が投資を実施している場合は、所得税の対象となります。個人がLPSへ出資した場合は、個人が直接投資を実施した場合と同様で帰属する損益については所得税の計算を実施することになります。例えば、未公開株式投資を行い上場後に上場株式の売却を実施した場合は、上場株式等の譲渡になるため、他の上場株式等の譲渡損益と通算され、申告分離課税20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)となるため、法人で投資をするべきか、個人で投資をするべきか、有限責任事業組合(LLP)を活用するべきか等の検討も設立時における重要な経営アジェンダの1つとなっています。
投資事業有限責任組合契約に関する法律では、投資家及び債権者保護の観点から、「財務諸表等の備付け及び閲覧等」を規定しています。
無限責任組合員は、毎事業年度経過後三月以内に、その事業年度の貸借対照表、損益計算書及び業務報告書並びにこれらの附属明細書を作成し、五年間主たる事務所に備えて置かなければならない。(投資事業有限責任組合契約に関する法律第8条第1項)
無限責任組合員は、組合契約書及び公認会計士又は監査法人の意見書(貸借対照表及び損益計算書並びにこれらの附属明細書に係るものに限る。)を併せて備えて置かなければならない。(投資事業有限責任組合契約に関する法律第8条第2項)
組合員及び組合の債権者は、営業時間内は、いつでも、財務諸表等並びに前項の組合契約書及び意見書の閲覧又は謄写を請求することができる。(投資事業有限責任組合契約に関する法律第8条第3項)
未公開株式等の流動性の低い金融商品に対して、LPSを通じて投資を行うことにより、ガバナンス体制を法的に担保させている制度設計となっており、リスクマネーの供給が行われることを前提に一定程度の信頼性を確保できるよう企図して設計された仕組となっています。
投資事業有限責任組合は、組合契約が締結された場合、その効力発生時点から2週間以内に登記する必要があります。(投資事業有限責任組合契約に関する法律第17条)
登記する場合、例えば下記の事項を記載します。
・組合の事業内容
・組合の名称
・組合の事務所の所在場所
・無限責任組合員の氏名又は名称及び住所
・組合契約の効力発生日
・組合の存続期間
・解散の事由
登記制度により投資家から投資検討時の信頼性向上が図られており、企業、年金投資家、富裕層個人からの投資において、LPSを活用したベンチャーキャピタル投資、バイアウト投資などが一般的なスキームとして採用されています。
また、令和5年6月に投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約登記規則(以下「登記規則」という。)が改正され、LPSのGPとして、LLPを登記することができることとなりました。LLPを組成し、そのLLPをLPSのGPにする、という手法が近年では活用されることがありますが、登記制度の観点からも実務に即して改正が進みました。出資の価額を限度として組合の債務を弁済する責任を負う組合員(有限責任組合員、LP)のみで構成されるLLPをLPSのGPにすれば、LPSの負債の責任が個人までは及ばない上、パススルー課税の恩恵も受けられるというメリットがあります。LLPをLPSのGPとして登記するためには、LLPを先に登記した上で、投資事業有限責任組合契約書において、LLPをLPSのGPとする規定がある必要があります。スキーム検討時には、法務・会計税務と複合的な検討が必要ですのでご関心のある方は是非弊所までお問い合わせください。
政府は、日本におけるプライベートエクイティマーケット拡大のために、グローバル市場の投資を呼び込む体制整備として必要な施策を順次打ち出しており、投資事業有限責任組合に関する法律、投資事業有限責任組合計算規則等の改正にはこのような背景があると考えられます。
以下では、「公正価値測定」をキーワードに解説します。
1998年に施行された中小企業等投資事業有限責任組合会計規則が廃止され、2023年12月5日より投資事業有限責任組合会計規則が新設されました。
この間、投資を含む金融の国際化、IFRSをはじめとする会計基準における未上場株式の公正価値評価の導入等が行われています。また、スタートアップを生み育てるシステムを創出するための政策が協議・実行されており、そういった背景があり投資事業有限責任組合の会計基準が改正されています。
改正前の会計基準でも、投資には原則的に時価を付さなければならないとされていましたが、会計規則の大きな変更点として時価の定義が追加され、時価は「公正価値」となった点に留意する必要があります。
投資事業有限責任組合では投資について原則的に時価評価する必要があり、未公開株式も同様です。投資評価方法として多くの組合が参照しているのが、国際的に投資ファンドの時価評価における実務指針として普及しているIPEV(International PrivateEquity and Venture Capital Valuation Guidelines)です。経済産業省が公表している「投資事業有限責任組合モデル契約【別紙3】投資資産時価評価準則」の記述も以下のようになっています。
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無限責任組合員は、投資事業有限組合の財産及び損益の状況を算定するために、投資先企業へ の投資資産について適正な評価額を付さなければならない。その評価額は、
International Private Equity and Venture Capital Valuation Board が設定した
International Private Equity and Venture Capital Valuation Guidelines に準拠した「公正価値」とする。
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今後のIPEVによる「公正価値」測定が普及していくことで、金融の国際化が一段と進み、多くのスタートアップ企業へリスクマネーの提供機会が増えていくことが期待されています。
2024年9月20日に企業会計基準委員会(ASBJ)から「金融商品会計に関する実務指針(案)」が公表され、企業などが行う投資事業有限責任組合への出資額について、当該組合の公正資産に含まれるすべての市場価格のない株式について時価を持って評価し、組合への出資者の会計処理の基礎とすることができるという規定が追加される案が提出されておりました。
2025年3月11日にパブリックコメント等の意見募集を踏まえて、改正移管指針第 9 号「金融商品会計に関する実務指針」の公表が行われています。
本実務指針第 132-2 項の定めを適用するにあたり、組合等への「出資者である企業」が本実務指針第 132-2 項の定めを適用する組合等の選択に関する方針を定め、当該方針に基づき、組合等への出資時に本実務指針第 132-2 項の定めの適用対象かどうか決定し、本実務指針第 132-2 項の定めを適用することとした組合等への出資の会計処理は出資後に取りやめることはできないこととされるという規定になっています。なお、本実務指針第 132-2 項においては「組合等の決算において、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価をもって評価していること」と規定されており、この点について本実務指針第308-3項では「ここで、『時価をもって評価している』場合とは、組合等が適用している会計基準により市場価格のない株式について時価評価が求められている場合のほか、市場価格のない株式について時価評価する会計方針を採用している場合が含まれると考えられる。」とあることから、組合が任意の注記情報として時価を開示している場合や、組合等の決算の枠外において任意の時価情報を開示している場合には、「出資者である企業」は本実務指針第 132-2 項の取扱いを適用できないものと考えられます。
これまでの会計基準では、未公開株式は取得価格での評価であったため、組合への出資においてこれを時価評価できるとした場合に、出資者である企業にとっては会計処理に大きな影響を及ぼすことになってくるため、本実務指針の適用可否の判断は重要な経営アジェンダの1つといえるでしょう。
本実務指針については、2026 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされておりますが、2025 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができることとされています。投資家への影響のみならず、GPの果たすべき役割についても大きな影響がある改正となっています。
今後の方向性としては出資先の未公開株式においても時価による評価がされていくトレンドになっていくことが推測されます。本改正についての意見交換や社内体制整備のご相談についてもご関心のある企業は是非お問い合わせください。
出典:改正移管指針第9号
「金融商品会計に関する実務指針」の公表
https://www.asb-j.jp/jp/ikan/y2025/2025-0311.html
東京共同会計事務所では、プライベートエクイティに関するビジネスに携わる方々に必要な業務をクライアントオリエンテッドに提供して参りますのでご関心のある企業様からのご相談をお待ちしております。
なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。
記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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