EUの炭素国境調整措置(CBAM)への日本企業の対応について<br>(CBAMに係るWTOでの動きとCBAM簡素化案に係る動き)
来年(2026年)1月より、EUの炭素国境調整措置(CBAM)の本格実施が開始されます。EU域外から肥料、セメント、鉄・鉄鋼、アルミなどのCBAM対象産品を輸入する輸入者は、CBAM申告者としての認定を受けた上で、輸入産品の二酸化炭素(CO2)の埋込排出量に応じたCBAM証書を購入し、翌年、前年1年分の輸入製品の埋込排出量の総量を申告(CBAM申告)すると共に購入したCBAM証書の精算をすることになります。
しかしながら、EU理事会では9月にはCBAMの簡素化についてCBAM規則が改正されるとしていましたが、未だ当該CBAM規則の改正は完了しておりません。一方、欧州委員会は、CBAM対象産品の輸入者に対して、早期の認定申請を呼び掛けています。
本稿では、EUのCBAM関係規則の整備状況と、認定CBAM申告者の認定申請の手続きの概要について説明します。
目次
(1)経緯
2月26日、欧州委員会は、CBAM簡素化を内容とするCBAM規則の改正案を公表しました。改正案に対して、5月22日に欧州議会が、5月27日にEU理事会がそれぞれの修正案を採択しました。
これを受けて、欧州議会、EU理事会で協議が行われ、6月18日に、合意に至っています。合意には、少量輸入者の免除、認定手続、排出量データ収集、排出量の算出方法、排出量の検証、第三国で支払われる炭素価格が含まれると報じられています。
この合意内容が条文化され、欧州議会及びEU理事会で採択がなされた後、EU官報に掲載されて、正式に発効することとなります。
(2)CBAM規則改正案の採決状況
9月10日、欧州議会ではCBAM規則簡素化案を賛成多数で可決しました。EU理事会では、9月29日に全会一致で可決しました。数日中にEU官報に掲載されて、正式に発効する見込みです。
(3)CBAM実施規則
CBAM規則の詳細については、欧州委員会が策定する実施規則等に規定されることになります。欧州委員会が準備しているCBAM関係の実施規則等は以下のとおりです。
(4)将来のCBAM対象産品の拡大
上述のCBAM簡素化の動きとは別に、将来のCBAM対象産品の拡大についても検討が行われています。欧州委員会は、8月26日を期限としてCBAM対象品目拡大に関するパブリックコメントを行っており、その結果を踏まえて、今後CBAM規則の改正案を検討していくこととされています。どのような品目が追加されるのか、注視していく必要があります。
認定CBAM輸入者になろうとする輸入者は、CBAM registryを介してCBAMの権限ある当局に認定申請を行います。
申請に際しては、以下の情報を権限ある当局に提供します。
(a) 会社名、所在地、連絡先情報
(b) EORI番号
(c) EUにおける主な経済活動
(d) 申請者が国税債務の滞納整理の対象ではないことの証明
(申請者の設立加盟国の税務当局による証明)
(e) 申請者が、申請前の5年間に関税法、税法等の重大な違反がないことの誓約
(経済活動に関連する重大な犯罪歴がないことを含む)
(f) CBAM規則に基づく義務を履行するための申請者の財務能力及び運用能力を実証す
るために必要な情報及び権限ある当局がリスクありと判断した場合の補足文書
(過去3会計年度分の損益計算書及び貸借対照表など)
(g) 申請年及び翌年の、物品の種類別のEUへの輸入額及び数量(推定額及び数量)
(h) 申請者が代理人の場合、委任者の名称と連絡先情報(該当する場合)
なお、権限ある当局は、申請を受理後120日以内に結論を出すこととされています。
上述はCBAMをとりまく現状の概略をまとめたものとなっています。また、あくまでも途中経過の概要説明です。従って、実際にCBAM対応を行う際には、最終的に改正されたCBAM規則や欧州委員会の公表資料を確認する必要があります。
(参考文献)
CBAM規則:https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32023R0956
改正案採択時のプレスリリース(欧州議会): https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20250905IPR30181/cbam-parliament-adopts-simplifications-to-the-eu-carbon-leakage-instrument
改正案採択時のプレスリリース(EU理事会): https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2025/09/29/cbam-council-signs-off-simplification-to-the-eu-carbon-leakage-instrument/
本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
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