法人が国外関連者と取引を行った場合には、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」及び「独立企業間価格算定するために重要と認められる書類」 を作成することが求められます。国税庁、所轄国税局若しくは所轄税務署の職員(以下「国税職員」)がこれらの書類の提示若しくは提出を求めた場合で、所定の範囲内で指定された日までに提示若しくは提出がなかったときには、税務署長は、法令の定めにより独立企業間価格を推定して更正又は決定をすることができます。
目次
法人が当該法人に係る国外関連者との間で国外関連取引を行った場合には、当該国外関連取引に係る「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」(ローカルファイル注1)をその事業年度の法人税確定申告書提出期限までに作成し、又は取得し、保存する(同時文書化)必要があります(措法66の4⑥)。法人税確定申告書提出期限までにローカルファイル作成等が必要になる国外関連取引を同時文書化対象国外関連取引といいます(措法66の4⑪)。
(注1 参考文献 「移転価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし」(平成28年6月) 7頁)
ローカルファイルは、「国外関連取引の内容を記載した書類」(措法規則22条の10⑥一)と「国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するための書類」(同項二)であり、その内容は以下参考文献、国税庁パンフレット10~11頁を参照してください。
また、同時文書化することは求められていないものの、「独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類」の提示若しくは提出が求められることがあります(措法66の4⑫)。「独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類」は、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類に記載された内容の基礎となる事項を記載した書類」、「同時文書化対象国外関連取引に係る独立企業間価格を算定する場合に重要と認められる書類」をいいます(措法規則22条の10⑪)。
(参考文献「移転価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし」(平成28年6月))
法人税確定申告書提出期限までにローカルファイルの作成等は、前事業年度における一の国外関連者との間で行った国外関連取引以下のいずれにも該当する場合には同時文書化が免除されます。このような国外関連取引を同時文書化免除取引といいます(措法66の4⑭)。
(1)一の国外関連者との間で行った国外関連取引につき、その国外関連者から支払を受ける対価の額及びその国外関連者に支払う対価の額の合計額が五十億円未満であること。
(2)一の国外関連者との間で行った国外関連取引(無形資産の譲渡若しくは貸付けにつき、その国外関連者から支払を受ける対価の額及びその国外関連者に支払う対価の額の合計額が三億円未満であること。
同時文書化免除取引について、ローカルファイルの作成が完全に免除されている訳ではなく、「独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類」を国税職員に提示若しくは提出を求められた場合には一定の期日までに提示若しくは提出する必要があります(措法66の4⑭)。
「独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類」は、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類に相当する書類」(ローカルファイルに相当する書類(注2、以下「相当する書類」)、「相当する書類に記載された内容の基礎となる事項を記載した書類」、「相当する書類に記載された内容に関連する事項を記載した書類」、「その他独立企業間価格を算定する場合に重要と認められる書類」(措法規則22条の10⑫)とされています。
同時文書化対象取引と同時文書化免除取引で作成すべき書類の名称は異なりますが、作成すべき書類の範囲は、全体としては実質的な差異はないと思われます。
(注2 国税庁は、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類に相当する書類」をローカルファイルに相当する書類と呼称しています。
参考文献 「移転価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし」(平成28年6月) 7頁)
移転価格税制における文書化の範囲をまとめると以下のとおりです。
同時文書化取引 | 同時文書化免除取引 | ||
同時文書化義務 あり | 独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル) | 同時文書化義務なし | 独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類*2 (ローカルファイルに相当する書類を含む。) |
同時文書化義務 なし | 独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類*1 |
*1と*2の内容は異なります。
国税職員が同時文書化対象国外関連取引に係るローカルファイルの提示若しくは提出を求めた場合に、その日から45日を超えない範囲内において当該職員が指定するまでに提示若しくは提出がなかったとき、「独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類」の提示若しくは提出を求めた場合に、その日から60日を超えない範囲内において当該職員が指定するまでに提示若しくは提出がなかったとき、法令で定める方法で計算した金額を独立企業間価格とみなして国外関連取引を行った事業年度の所得の金額又は欠損金額につき更正又は決定をすることができます(措法66の4⑫)。
同様に同時文書化免除取引に係る「独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類」の提示若しくは提出を求めた場合に、その日から60日を超えない範囲内において当該職員が指定するまでに提示若しくは提出がなかったときも同様に国外関連取引を行った事業年度の所得の金額又は欠損金額につき更正又は決定をすることができます(措法66の4⑭)。
法令で定める方法は、法人(日本側)の当該国外関連取引に係る事業と同種の事業を営む法人で事業規模その他の事業の内容が類似する事業の売上総利益率又は総原価売上総利益率を用いた再販売価格基準法又は原価基準法であり(措法66の4⑭一)、これらの方法により算定した金額により独立企業間価格を推定できない場合には、利益分割法、取引単位営業利益法、ディスカウント・キャッシュ・フロー法及び同等の方法に類する方法により独立企業間価格を推定します(措法66の4⑭一)。
独立企業間価格は、「独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に当該国外関連取引につき支払われるべき対価の額」(措法66の4②)であり、第三者間取引である比較対象取引(注3)を参照して算定され、国外関連取引と比較対象取引との間には比較可能性が求められます。ところが、推定課税においては、「同種の事業」、「事業規模その他の事業の内容が類似」という同種性及び類似性でよく、厳密な比較可能性は求められません。また、「同種」、「類似」の事業を行っている「同種事業類似法人」は、関連者間取引を主として行っている企業でもよいとされています(注4)。
注3 租税特別措置法基本通達66の4(3)-1~4 第3款 比較対象取引
注4 東京地判平成23年12月1日(TAINZ Z261-11823)
課税処分に不服がある場合、国税不服審判所への審査請求を経て訴訟にいたる場合があります。一般的に更正処分等の課税処分の取消訴訟においては、課税処分の適法性の説明責任(立証責任)は、課税庁にあります(注5)。訴訟において、課税要件に該当する事実の存否が裁判官にとって真偽不明であった場合、引き分けにはできないため、いずれかの当事者を不利にあつかう必要があり、説明責任(立証責任)を負う当事者が不利益を負うことになり、敗訴します。
したがって、納税者は、課税処分取消訴訟において勝訴するためには、課税庁が課税処分において算定した独立企業間価格が適法ではないという心証を裁判官が持つ程度に主張・立証すればよく(反証といいます。)、自ら適正な独立企業間価格を主張・立証する必要はありません。
ところが、推定課税が行われた場合には、納税者が推定を破るためには、納税者側が推定された独立企業間価格とは異なる適正な独立企業間価格の主張・立証をすることが必要になります。その意味で、推定課税規定は、「独立企業間価格の立証責任を課税庁側ではなく納税者側に負わせることとする一種の立証責任の転換を定めた規定」(注6)であると考えられ、納税者の訴訟における説明責任(立証責任)のハードルが上がります。納税者においても、課税庁には推定課税という奥の手があることを認識し、移転価格文書を適時に整備することが望まれます。
注5 例えばアドビ事件(東京地判平成19年12月17日TAINZ Z257-10846)では、「被告は、課税処分の取消訴訟において、所得の存在について主張立証責任を負うものであるから・・・」という判示があります。
注6 注4 東京地判平成23年12月1日
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