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2024年9月に大統領に就任したアヌラ・クマラ・ディサナヤケ氏(Anura Kumara Dissanayake)政権は、財政再建と外資誘致を柱とした経済改革を加速させています。2025年3月には、日本との間で約25億ドル規模の債務再編協定を締結し※1、空港・港湾など主要インフラ工事が再開されました。外交面では、日本大使との協議を通じたインフラ・貿易分野での協力が進展し、インドや中国との間でもバランスの取れた関係構築が進められています。
2025年上半期の外国直接投資(FDI)流入額は前年比101%増の5億700万ドル超に達し※2、BOI登録案件は57件※3、提案総額は約46.7億ドル(うち39億ドルがグリーンフィールド案件)となりました。特に港湾開発、製造業、不動産、ICT分野で活発な投資が見られ、日本企業にとっても市場参入の好機が広がっています。
出典:
※1:LNW Lanka News Web
「Sri Lanka Resumes Key Infrastructure Projects with Japan and China」
※2:Daily Mirror報道(2025年7月21日)
「Daily FT+1」
※3:Sri Lanka Mirror(政府統計)
「Govt. reveals FDI stats for first half of 2025」
こうした政府の新政策や経済成長戦略から、日本企業にとって潜在的な投資機会が様々な分野に広がっていると考えられます。具体例として、以下の分野が挙げられます。
■再生可能エネルギー分野
工業団地での風力・太陽光発電所の設立や、再エネ普及を支える蓄電システム、廃棄物発電プラントの建設、グリーンボンド・ブルーボンドの活用。
■インフラ開発
工業団地近隣での物流拠点整備による国際貿易促進。
■技術・デジタル変革分野
データセンターや光ファイバーネットワークの共同開発、フィンテック・エドテック・メドテックに特化したスタートアップ支援拠点の創設。
■観光・ホスピタリティ分野
ビーチリゾートや高地観光地でのリゾート開発、丘陵地観光向けケーブルカーやモノレールの整備が有望視されます。
■輸出志向型産業
紅茶・スパイスなどの農産品や鉱物を基盤とした製造業、地域市場向けIT製品や医薬品開発、さらに南アジア・中東・アフリカ向け再輸出拠点としての物流施設(自動化倉庫、コールドチェーン、保税・免税物流センター)整備が検討可能です。
■戦略的地位の活用
コロンボにグローバルサウス業務統括拠点を置く動きも考えられます。加えて、教育・人材開発分野でのSTEM研修機関の設立、金融サービス分野での長期産業資金の供給やベンチャーキャピタル投資も注目されます。
日本企業のスリランカ進出に関して詳しくは「スリランカ大統領アヌラ・クマラ・ディサナヤカ(Anura Kumara Dissanayake)氏の就任に伴う、政治環境の変化と主要経済政策」もご覧ください。
こうした動きは、国家プロジェクトと連動しています。例えば、デジタル決済基盤「GovPay」の導入や、コロンボの大規模都市再開発「Port City Colombo」※1、600MW規模のMaha Oya揚水式蓄電所プロジェクトなど※2、で、日本企業にとって中長期的に多様な参入機会を提供する可能性があると考えられます。
出典
※1:GOBINSIDER
「Sri Lanka beefs up GovPay to further digitise government services」
※2::Ceylon Today
「Maha Oya Pumped Storage Project Set for Launch」
スリランカでは、大部分の産業分野で外資による投資が自由に認められ、100%外資所有も可能です。製造業、輸出志向型産業、ICT、観光、不動産開発(条件付き)など、多くの分野では規制がなく、明確な法制度のもとで投資手続きが進められます。この投資自由度の高さは、外国投資家にとってスリランカを魅力的な進出先にしています。
一方で、以下の特定分野では、経済安全保障や公共利益保護の観点から制限や承認要件が設けられています。
1. スリランカ人のみが従事できる産業※1
2. 外資所有比率が40%までに制限される産業※2スリランカの輸出が国際的な輸出割当制度の対象となっている品目の製造
スリランカでは、上記以外にも外国企業の業務範囲に関する規制が存在しますが、本ニュースレターではその詳細については省略します。具体的な事業計画や投資形態を検討される際は、現地法令、所管当局の最新ガイドライン、および「Foreign Exchange Act, No. 12 of 2017」をご参照ください。
出典
※1:Foreign Exchange Act, No. 12 of 2017 SCHEDULE Part 1 A 7
※2:Foreign Exchange Act, No. 12 of 2017 SCHEDULE Part 1 A 8
スリランカでは、外国投資家が事業を開始する際に選択できる法人形態が明確に規定されており、多くの業種で100%外資所有の会社設立が可能です。その中でも最も一般的なのが、2007年会社法第7号に基づくプライベート・リミテッド・カンパニー(Private Limited Company/Ltd)です。この形態は、行政手続きや銀行取引、契約実務において広く受け入れられ、安定した事業運営基盤を提供します。
プライベート・リミテッド・カンパニーの主な特徴
所有構造 | 多くの業種で外資100%所有が可能 |
必要人員 | 最低1名の株主と1名の取締役(いずれも居住要件なし) |
資本金 | 法定最低資本額はなし(ただしBOI認可事業や一部業種では実質的な資本要件あり) |
所在地 | スリランカ国内の登録住所が必要 |
会社秘書役 | ローカル・カンパニーセクレタリーの任命が必須 |
有限責任 | 法人格の付与により、株主の責任は出資額に限定 |
(出典:会社法 2007年会社法第7号)
1.会社名の予約(Registrar of Companies への申請)
希望する会社名をROC(Registrar of Companies)に申請し、他社と重複がないか確認します。通常はオンラインで申請可能で、審査は数営業日以内に完了します。英語表記が基本ですが、日本語由来の社名も使用可能です(英語表記必須)。
2.定款・細則の作成(Articles of Association)
会社の運営ルールや株式構成、取締役会の権限などを定めた文書を作成します。標準テンプレートを修正して利用することが多いですが、外資特有の条件(配当送金、外国株主構成など)を反映させるため、弁護士や会社秘書役によるカスタマイズが推奨されます。
3.登記申請(必要書類:株主・取締役情報、登記住所証明など)
ROCに登記申請を行います。株主・取締役のパスポートコピー、住所証明(英語翻訳付)、会社登記住所の証明書類が必要です。全て英語での提出となるため、日本国内での認証や翻訳作業を事前に終えておくとスムーズです。
4.会社登録証明書の取得(Certificate of Incorporation)
ROCから発行される正式な法人設立証明書です。この証明書があれば、契約の締結や銀行口座の開設、税務登録などが可能になります。発行までは通常5〜10営業日程度ですが、書類不備があると延びる場合があります。
5.税務番号(TIN)の取得および必要に応じてVAT登録
税務番号(TIN)は全ての法人に必須で、設立後すぐに税務署へ申請します。売上規模によっては付加価値税(VAT)の登録も必要になります。VAT登録は通常、事業開始前に済ませると後の申告がスムーズです。
6.銀行口座の開設(外資投資用:Inward Investment Account/IIA)
外資系企業は、資本金の送金や利益の本国送金のため、スリランカ中央銀行認可の商業銀行でIIA口座を開設する必要があります。パスポート、法人設立証明書、取締役会決議書、資金源証明などが求められ、銀行によっては追加書類の提出や現地面談が必要な場合もあります。
7.一般銀行口座の開設
IIA口座とは別に、日常的な事業運営(取引先への支払いや現地経費精算など)には一般銀行口座が必要です。IIAから必要資金をこの口座へ送金し、給与支払い、仕入れ代金支払い、公共料金支払いなどに使用します。開設にはIIAと同様にKYC書類(法人設立証明書、税務番号、取締役情報など)が必要ですが、取引の自由度が高く、事業運営に不可欠な口座です。
投資額や事業分野によっては、スリランカ投資委員会(Board of Investment of Sri Lanka/BOI)の認可を得ることで、税制優遇、輸入関税免除、外国人就労ビザ発給の円滑化など、さまざまなインセンティブを受けることができます。
会社設立の要件や手続きは事業分野や投資形態によって異なる場合があります。特に外資規制や為替管理(Foreign Exchange Act, No. 12 of 2017)に関連する条件は、事前に確認することが重要です。
スリランカ投資委員会(BOI)は、外国直接投資(FDI)を促進・管理する政府の主要機関であり、投資家に対して税制優遇、関税免除、土地リースの便宜、外国人就労ビザの迅速発給など※、多岐にわたる支援とインセンティブを提供しています。
特に、大規模製造業・輸出志向型産業、再生可能エネルギーやインフラ開発、ITパークやテクノロジーハブの開発、ホスピタリティ産業(リゾート、ホテル、観光関連施設)、および輸出加工区や経済特区(SEZ)での事業などは、BOI認可を受けるメリットが大きい分野です。BOI認可は任意ですが、税制優遇、土地リース、外国人雇用が必要な案件では取得によって事業展開が大幅に円滑化されます。申請要件や必要書類は事業分野によって異なるため、事前にBOIおよび現地パートナーとの詳細確認が推奨されます。
※出典: Embassy of Sri Lanka, Beijing「Why Invest in Sri Lanka」
日本企業にとってのメリット
税制優遇措置 | 法人税率の軽減、一定期間の税免除、輸入関税の免除 |
手続きの迅速化 | 各種許認可のワンストップサービスにより、設立期間を短縮 |
土地利用の柔軟性 | BOI認可プロジェクトに限り、最長99年間の土地リースが可能 |
労働・ビザ支援 | 外国人専門人材の就労ビザ発給手続きが迅速化 |
特別インセンティブ | 輸出志向型産業や再生可能エネルギーなど優先分野への追加優遇 |
インワード・インベストメント・アカウント(Inward Investment Account/IIA)は、外国からの投資資金を合法的に受け入れ、配当・利益・売却収益・資本を本国に送金するための外貨専用銀行口座です。スリランカ中央銀行の規定に基づき認可を受けた商業銀行で開設され、Foreign Exchange Act, No. 12 of 2017に準拠します。IIAの開設は単なる銀行手続きではなく、スリランカの外為管理制度下で投資家の権利を守るための法的要件であり、BOI認可の取得や政府優遇措置の適用にも不可欠です。開設や運用にあたっては、同法および最新の中央銀行ガイドラインを必ず確認することが重要です。
日本企業にとって、IIAは単なる資金管理口座ではなく、以下のような目的を持つ金融インフラです。
(Foreign Exchange Act, No. 12 of 2017)
開設に必要な主な書類
※銀行により追加書類や現地面談を求められる場合あり
スリランカは、政治・経済改革の加速と国際的信頼回復により、今まさに新たな成長ステージへと踏み出しているといえるでしょう。外資規制の自由度の高さ、BOIを通じた税制優遇や土地リースの柔軟性、明確かつ整備された会社設立制度、そして投資資金の安全な管理環境は、日本企業にとって魅力的な投資条件といえます。
さらに、再生可能エネルギー、インフラ開発、製造業、ICT、観光、物流など、世界市場と結びつく分野でのビジネス機会が急速に拡大しています。今後5〜10年の間にスリランカ市場に参入することは、アジアと中東・アフリカを結ぶ戦略拠点を確保する大きなチャンスとなるでしょう。
東京共同グループの一員である株式会社東京共同ホールディングスでは、日本企業がスリランカに安心して投資できるように、最新の政策・規制情報や投資環境の変化を常に把握しています。2019年にスリランカ投資委員会(BOI)と情報交換に関するMOUを締結し、さらにスリランカ国籍のプロフェッショナルやカンパニー・セクレタリーが社内に常駐しています。
そのため日本語による円滑な対応と現地実務に即したサービス提供が可能です。会社設立からBOI認可取得、IIA口座開設、税務・会計・コンプライアンスまで、ワンストップでサポートいたします。スリランカへの進出をご検討の方はぜひお気軽にご連絡ください。
本稿のお問合せ先
電話:+81 70 1495 6584
Email:eranga-dilshan@tkao.com
PDF:新大統領就任で変わるスリランカ進出のチャンス ~日本企業の法人設立からIIA口座開設まで解説 ~
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