【インドネシア】タックスホリデー・グローバルミニマム課税など
インドネシア経済・税制の最新動向

  • 国際税務・国際ビジネス
【インドネシア】タックスホリデー・グローバルミニマム課税など<br>インドネシア経済・税制の最新動向

 本稿では、2025年度上半期におけるインドネシアの外国直接投資および税制関連規制の動向についてお伝えします。

目次

主な動向

政治的安定と政策的継続性

 2024年10月のプラボウォ・スビアント大統領就任後、2025年上半期は政策の継続性と新政権の経済政策の実施に焦点が当てられました。

 プラボウォ大統領の主要な政策課題は下記の通りです。

  • 2029年までに経済成長率8%へ加速
  • 食料安全保障と自給自足
  • エネルギー自給
  • 児童向け無料栄養食プログラム
  • 政府歳入の増加と税制改革
  • インフラ開発
  • 投資誘致
  • 貧困撲滅
  • 人的資源開発

持続的な外国直接投資の流入

 インドネシアは引き続き多額の外国直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)を誘致しており、多様な分野で堅調な実績がみられます。

 インドネシアの2025年第1四半期(1~3月)における四半期累計のFDI実績は、継続的な成長を示しており、FDI実現額は142億ドルで、2024年第1四半期と比較して12.7%の増加となりました。

 投資を誘致している主要分野には、製造業(特に川下産業)、再生可能エネルギー、デジタル経済などが含まれます。

インフラ開発の重点化

 プラボウォ政権は、インドネシア諸島全域におけるインフラ開発プロジェクトへの取組みを改めて表明しました。

 このインフラ開発の重点化は、交通、エネルギー、通信インフラにおける投資機会を生み出しています。

インフレーション管理

 世界経済情勢が引き続き課題をもたらす中、インドネシア中央銀行
(Bank Indonesia:BI)は金融政策手段を通じて、インフレーションを積極的に管理しています。

 2025年上半期のインフレーション数値は、物価安定維持に向けた取組みが継続していることを示していますが、外部からの圧力は依然として重要な考慮すべき点です。

インドネシア・ルピアの安定化

 インドネシア・ルピアは2025年上半期に世界的なマーケット心理と国内経済指標の影響により変動が見られます。

 BIの介入と慎重な金融政策は、相対的安定性を維持する目的で行われています。

税制政策の動向

 インドネシア政府は、歳入を強化し、国際的に最も優れているとされる外国制度を模す形での税制改革を継続的に進めています。

 法人所得税、付加価値税(Value Added Tax:VAT)、デジタル課税に関する議論と調整が継続しています。

 経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development:OECD)のグローバル・ミニマム課税を実施するための規則も公布されています。

 外国投資家は、税制政策の動向が事業活動に与える影響を評価するために注視しています。

持続可能な投資の重点化

 インドネシアでは、持続可能かつ環境に配慮した投資を誘致することがますます重視されています。

 インドネシア政府は、グリーンテクノロジーと責任ある企業活動を促進するためのインセンティブと枠組みを検討しています。

経済ハイライト(2025年1-8月)

インフレーション率

  • 前月比
  • 2025年1月:0.76%
  • 2025年2月:▲0.09%
  • 2025年3月:1.03%
  • 2025年4月:1.17%
  • 2025年5月:▲0.37%
  • 2025年6月:0.19%
  • 2025年7月:0.30%
  • 2025年8月:▲0.08%
  • 前年同月比
  • 2025年1月:0.76%
  • 2025年2月:▲0.09%
  • 2025年3月:1.03%
  • 2025年4月:1.95%
  • 2025年5月:1.60%
  • 2025年6月:1.87%
  • 2025年7月:2.37%
  • 2025年8月:2.31%

 BIが2025年に設定した目標(予想)インフレーション率が2.5±1%であるため、インフレーション目標範囲は1.5~3.5%となります1


1 BI理事会会合における最新データと予測(2025年5月21日プレスリリース)

GDP成長率

  • 前年同期比

2025年第1四半期実質4.87%

  • 2024年第4四半期の5.02%および2024年第1四半期の5.11%から減速している。
  • GDP成長の主な要因として農業の成長(10.52%)と堅調な輸出(6.78%)が挙げられる。
  • 民間消費は4.89%増加した一方、政府支出は1.38%減少している。
  • 総固定資本形成(投資)は2.12%と鈍化している。

2025年第2四半期実質5.12%

  • 2025年第1四半期の4.87%から加速している。
  • 投資と家計支出が強く寄与し、輸出も寄与した。

 BIおよび政府の年初以来の目標・予測は依然として適切で、2025年のBI予測範囲は4.6~5.4%、政府目標は5.2~5.3%でした2

  • 前期比

 2025年第1四半期実質:▲0.98%(2024年第4四半期から減速している)
 2025年第2四半期実質:4.04%


2 BI理事会会合における最新データと予測(2025年5月21日プレスリリース)

為替相場(BIジャカルタ銀行間直物ドル相場(Jakarta Interbank Spot Dollar Rate:JISDOR)

  • 2025年4月30日:1ドル=16,679ルピア
  • 2025年5月28日:1ドル=16,300ルピア
  • 2025年6月26日:1ドル=16,233ルピア
  • 2025年7月31日:1ドル=16,459ルピア
  • 2025年8月29日:1ドル=16,641ルピア

政策金利(BIレート)

  • 2025年3月19日:5.75%(据置き)
  • 2025年4月23日:5.75%(据置き)
  • 2025年5月21日:5.50%(BIは政策金利を引き下げ、インフレーション抑制の自信とともに、2025年第1四半期のGDP成長率が予想より僅かに低い結果となった中で、経済成長を支援する動きを示した。)
  • 2025年6月18日:5.50%(据置き)
  • 2025年7月16日:5.25%(低いインフレーション率、安定しているルピアに拘らず、世界経済の見通しが暗いため引き下げた。)
  • 2025年8月20日:5.00%(この追加利下げは、世界的不確実性を背景に経済を支える必要性が認識されたことから行われたが、市場にとってはサプライズとなった。)

出典

  • インドネシア中央統計庁(Badan Pusat Statistik:BPS):インフレーション率・
    GDP成長率
  • インドネシア中央銀行(Bank Indonesia:BI):為替相場・金利

外国人投資家に関連する新規・改正税法

タックスホリデーに関する規則改正(インドネシア財務大臣規則 2024年第 69 号:PMK-69/2024)

 インドネシアは2011年より、財務大臣規則第130号(Minister of Finance Regulation No.130/PMK.011/2011)に基づき、特定の事業分野に対して税制優遇措置を設けています。

 この規則は定期的に改正されてきました。

 最新の改正は、2020年9月18日付財務大臣規則第130号(Minister of Finance Regulation No.130/PMK.010/2020 dated 18 September, 2020)で、本制度の詳細につき一定の調整を行いました。

 2024年10月8日付財務大臣規則第69号(PMK-69/2024)では、電子申告に関する規則を改正するとともに、免税措置の申請期限を2025年12月31日まで延長しました。

 特定の事業分野(主に製造業、データセンターを含む)における新規投資で、実際投資額が1,000億ルピアを超える場合に、税制優遇措置が適用されます。

 インドネシアには法人所得税優遇措置の対象となる18のパイオニア産業があります。

 これらの産業は、広範な連携を有し、付加価値が高く、新技術を導入し、インドネシア経済にとって戦略的価値を提供するものとして定義されています。

 18のパイオニア産業は下記の通りです。

 1. 上流基礎金属産業(鉄鋼・非鉄鋼)
 2. 石油・ガス精製産業
 3. 石油・天然ガス・石炭を利用した有機基礎化学産業
 4. 農林産物を利用した有機基礎化学産業
 5. 無機基礎化学産業
 6. 医薬品原材料産業
 7. 放射線・エレクトロメディカル・エレクトロセラピー機器の製造産業
 8. 電子機器・テレマティクス機器の主要部品の製造産業(半導体ウェハ・液晶ディスプレイ用バックライト等)
 9. 機械および主要機械部品の製造産業
 10. 機械製造を支援するロボティック部品の製造産業
 11. 発電機器の主要部品の製造産業
 12. 自動車および主要自動車部品の製造産業
 13. 船舶用主要部品の製造産業
 14. 鉄道用主要部品の製造産業
 15. 航空機および航空宇宙関連支援向け主要部品の製造産業
 16. 農林産物を利用してパルプを生産する加工産業
 17. 経済インフラ産業
 18. デジタル経済(データ処理・ホスティング等)

 税制優遇措置期間および税制優遇額は、実際投資額に基づき、下記の通りです。

新規投資額(ルピア)法人所得税の減免率減免期間
1,000億以上5,000億未満50%5課税年度
5,000億以上1兆未満100%5課税年度
1兆以上5兆未満7課税年度
5兆以上15兆未満10課税年度
15兆以上30兆未満15課税年度
30兆以上20課税年度

 さらに、上記期間終了後、納税者は2課税年度の間、従前適用率の50%に相当する法人所得税(Corporate Income Tax:CIT)減免を受けられることがあります。

 納税者が最低5兆ルピアを投資したことにより、10課税年度の間、CIT100%減免を受けた場合、当該納税者は第11および12課税年度においても、CIT50%減免を受けられることがあります。

 納税者が1,500億ルピアを投資したことにより、5課税年度の間、CIT50%減免を受けた場合、当該納税者は第6および7課税年度においても、CIT25%減免を受けられることがあります。

 対象事業分野リストに含まれないプロジェクトの投資家であっても、当該プロジェクトが規則で定められた基準および採点方法に基づき80点以上を達成できる場合、税制優遇措置の申請書を提出することができます。

 また、PMK-69/2024は、OECDのグローバル・ミニマム課税(第2の柱)の影響を認識し、投資家が第2の柱の対象となる事業グループに属する場合、税制優遇措置の調整が必要となることがあります。

グローバル・ミニマム課税

 グローバル・ミニマム課税(Global Minimum Tax:GMT)は、別名「第2の柱
(Pillar Two)」とも呼ばれ、OECD/G20の税源浸食と利益移転(Base Erosion and
Profit Shifting:BEPS)に関する包摂的枠組みにおける主要な取り組みで、多くの国々にとって利益を減少する「底辺への競争(Race to the bottom)」とみなされている、管轄区域間の税制競争を緩和することを目的としています。

 GMTの主な目的は、大規模多国籍企業が事業を行う各管轄区域、または本国において、最低15%の実効税率が課されることを確保するためです。

 インドネシアは、2021年10月に合意された包摂的枠組みへの対応の一環としてGMTを導入するために2024年財務大臣規則第136号(PMK-136/2024)を公布し、GloBEモデル規則(Global Anti-Base Erosion Model Rules)導入に関する規制の枠組みを定めています。

 GMTは「所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR)」、「軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule:UTPR)」および「国内ミニマル課税(Qualified
Domestic Minimum Top-up Tax :QDMTT)」の3つの主要なルールを通じて15%の最低税率を適用します。

税務事例研究:株式売却または参加権益の移転に関するインドネシア税務裁判所事件日本・インドネシア二重課税回避協定(Double Taxation Avoidance Agreement:DTA)第13条の解釈

概要

 本件は、カンゲアン石油天然ガス鉱区の権益所有者であるEnergy Mega Persada Inc(EMPI)の株式を、Mitsubishi CorporationがKinross International Group Ltdに売却することが、カンゲアン鉱区における参加権益(Participating Interest:PI)の間接譲渡に該当するか否かについて、インドネシア国税総局(Directorate General of
Taxes:DGT)とKangean Energy Indonesia Ltd(KEI)との間で生じた紛争である。
 仮に間接譲渡に該当する場合、インドネシア税法に基づく所得税の対象となる。

 KEIはデラウェア(Delaware)に拠点を置く企業で、生産物分与契約(Production
Sharing Contract:PSC)に基づき、石油・天然ガス探査および生産のための恒久的施設(Permanent Establishment:PE)としてインドネシアにおいて事業を行っている。

 KEIは、イギリス領バージン諸島(British Virgin Islands:BVI)に拠点を置くEMPIが100%所有している。

 EMPIは下記3社に所有されていた。

  • PT Energi Mega Persada Tbk(インドネシア)50%.
  • Japan Petroleum Exploration Co. Ltd(日本)25%
  • Mitsubishi Corporation(日本)25%

 EMPIはKEIを100%保有しており、KEIはインドネシアのカンゲアン石油・天然ガス鉱区におけるPIを60%保有している。

 Mitsubishi Corporationは、EMPI株式25%をBVIに拠点を置くKinross
International Group Ltdに売却した。
 その株式売却価格は3,160万ドルであった。
 この取引はEMPIの株式売却を伴うものであった。

争点

 DGTとKEIは取引事実と価値については合意した。
 しかし、議論の焦点は、Mitsubishi CorporationのEMPI株式売却による収益がインドネシアで課税対象となるかどうかであった。

 主要な争点は、この株式売却がPIの間接譲渡に該当するか否かであり、該当する場合、インドネシア税法に基づく納税義務が生じる。

 DGTは、この取引は石油・天然ガス部門を管轄する国内規制に基づき、インドネシアで課税対象となるべきであると主張した。

 一方、KEIはこれに反論し、この取引は通常の株式売却であり、日本・インドネシア租税条約第6条、第13条および第22条の規定に該当すると主張した。

 それらの規定によれば、インドネシアにおける課税権は不動産(石油・天然ガスのPIを含む。)の直接譲渡にのみ及ぶものとされている。


1 第6条:不動産(例:石油・ガスにおけるPI)から生じる直接所得はインドネシアで課税対象となる。
2 第13条:不動産の直接譲渡に対してはインドネシアで課税することができるが、株式譲渡から生じる所得は原則として日本でのみ課税対象となる。
3 第22条:日本でインドネシアの税額を控除することにより二重課税を防止する。

判決

 インドネシア税務裁判所(Tax Court)はKEIに有利な判決を下した。

 裁判所は、当該取引はEMPI株式の売却であり、カンゲアン鉱区におけるPIの直接譲渡ではないと判決した。

 裁判官は、日本・インドネシアDTA第13条は、インドネシアが課税できるのは不動産の直接譲渡のみであると指摘した。

 争点の取引は株式売却に関するものであり、不動産からの利益に対する課税を規定する第13条の適用対象には該当しないものであった。

 裁判所は、EMPI株式の売却はカンゲアン鉱区と間接的に関連していたものの、不動産権の直接的移転を意味するものではないと判示した。

 その結果、裁判所は、DGTによるインドネシア政府規則第79/2010号(Government Regulation No.79/2010)および財務省令第257/2011号(Ministry of Finance Decree No.257/2011)の適用は、これらの国内規則はDTAの規定に優先し得ないため、不適当であると判断した。

 したがって、インドネシアにおける納税義務は生じなかった。

対策

 RSM Indonesiaの税務紛争・解決チームには、コンサルティング、商業またはDGTでの勤務経験を有する税理士および弁護士が在籍しています。

 税法に関する経験と知識を、AIツールを用いて得られる考察と組み合わせて、税務裁判所の判例、傾向および主要争点を分析しています。

 税務紛争・解決チームは、税務調査、税務異議申立、税務裁判所および最高裁判所への不服申立に継続的に関与しています。

 必要に応じて、将来リスクを低減するための費用対効果と実施すべき対策の検討を含めて支援します。

投資事例研究:eFishery-インドネシアにおける投資家保護の強化

 インドネシアは引き続き日本から多額の投資を誘致しているが、最近、eFisheryに関する粉飾疑惑が現地報道等で指摘されており、ガバナンスや内部統制を維持できない場合、成長ストーリーがすぐに崩壊することを示している。

 この事例は、新興市場において強靭で信頼性の高い事業基盤を構築しようとする投資家にとって貴重な考察を提供するだろう。

概要

 eFisheryは、SoftBank Group Corp.などのグローバル投資家が出資するインドネシア期待の水産スタートアップ企業だが、現地報道等によれば2025年初頭に粉飾疑惑が指摘された。

 調査の結果、同社について下記のことが判明した。

  • 6億ドルを超える収益の水増し
  • 利益を報告しながら実際の損失5,780億ルピアを隠蔽
  • 二重帳簿を管理
  • 誇大された事業規模-40万台と主張する給餌機に対して実際に確認されたのは2万4千台
  • 結果として投資家は1ドルにつき10セント未満しか回収できない見込み

日本投資家にとっての重要ポイント

  • デューデリジェンス期間中だけに限らず、継続的なリスク監視が不可欠である
  • 内部統制は、スタートアップ企業においても、会社の成長に応じて強化しなければならない
  • 取締役会だけではなく独立した検証メカニズムが重要となる
  • ガバナンスや内部統制の仕組みは国ごとに異なるため、現地の実情を理解することが重要である

リスク監視の強化

 インドネシアは規制枠組みを強化しており、特に金融庁(Financial Services Authority:OJK)の金融コングロマリット向け内部統制およびガバナンスに関する新規則(POJK 30/2024)を通じて進めている。

 これらの規制はより厳格なコンプライアンス要件を導入し、金融グループおよび外国投資家に対して、下記の措置を通じて、より高い基準の維持を義務づける。

  • リアルタイムリスク監視ツールの組込み
  • 内部監査及び不正検知体制の強化
  • 現地企業における能力構築の支援
  • 明確なエスカレーションと説明責任ルートの確立

対策

RSM Indonesiaは外国投資家に対して下記支援を行います。

  • ガバナンス体制の設計および強化
  • 不正リスク評価および内部統制診断の実施
  • 現地慣行と外国投資家の期待との整合

RSM Indonesiaのご紹介

Nick Graham

Director

本稿のお問合せ

株式会社東京共同ホールディングス
事業開発企画室

TEL:080-7672-4467
Email:shozo-suehiro@tkao.com

PDF:【インドネシア】タックスホリデー・グローバルミニマム課税などインドネシア経済・税制の最新動向

本稿はRSM Indonesiaから寄稿された原稿に依拠して作成しております。本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではございません。本稿に記載されている情報は一般的なものであり、必ずしも貴社の状況に対応するものではございません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがございます。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではございません。個別事案の検討・推進に際して、貴社において何かしらの決定をする場合は、貴社の顧問税理士等、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。

©2025東京共同会計事務所 無断複製・転載を禁じます。

関連コンテンツ

ページトップに戻る