フィリピンでは最近様々なビジネスに影響を与える法令や通達が公布されました。
 本稿では、デジタル化、労働、クロスボーダー取引に関する最近の施策と判例をご紹介します。
目次
2020年、フィリピン内国歳入庁(Bureau of Internal Revenue:BIR)は事務運営指針第27-2020号(Revenue Memorandum Order No. 27-2020)を通じてデジタルトランスフォーメーション(DX)ロードマップを発表しました。
このロードマップは、フィリピン財務省(Department of Finance)が、包括的な税制改革プログラムの目標、特に税務コンプライアンスの容易化に沿った税務行政の完
 全な近代化に向けた取組みを継続するようBIRに要請したものに応えるものであり、「ビジネス環境整備及び効率的行政サービス提供法(Ease of Doing Business and 
Efficient Government Service Delivery Act)」に沿ったものです。
デジタル化に関する法律やプログラムの導入により、フィリピンが急速に拡大する技術的変化と進歩に適応する必要性を認識していることが明らかです。
これらの法令やプログラムには下記のようなものがあります。
フィリピン共和国法第12023号(Republic Act No. 12023)は、1997年内国歳入法(National Internal Revenue Code)を改正し、デジタルサービスが12%の付加価値税(Value-Added Tax:VAT)の対象となるサービス範囲に含まれることになりました。
「デジタルサービス」は、「情報技術を利用してインターネットその他電子ネットワークを通じて提供されるサービスで、その提供が基本的に自動化されているもの」と定義されます。
これには、オンライン検索エンジン、オンラインマーケットプレイスまたは電子マーケットプレイス、クラウドサービス、オンラインメディアおよび広告、オンラインプラットフォーム、デジタル商品などが含まれます。
 デジタルサービスプロバイダー(Digital Service Provider:DSP)は、フィリピンにおいてVATの対象となるデジタルサービスを利用する消費者に対して、デジタルサービスを提供する居住者または非居住者とされています。
 非居住DSP(Nonresident Digital Service Provider:NRDSP)は、フィリピン国内に物理的拠点を有しないデジタルサービスプロバイダーを指します。
 NRDSPによって提供されるデジタルサービスは、当該デジタルサービスがフィリピン国内で消費される場合、フィリピン国内で提供されたものとみなされます。
全てのDSPは、居住者または非居住者を問わず、VAT登録が義務付けられ、フィリピン国内で消費されるデジタルサービスに対するVATの計算、徴収および納付の責任を負う義務があります。
 ただし、NRDSPがフィリピン国内で事業を営む消費者(政府またはその下部組織、機関または代理機関、国営または国管理企業(Government Owned or Controlled 
Corporation:GOCC)を含む)に対してデジタルサービスを提供する場合、当該フィリピンの消費者はリバースチャージ方式を用いてVATを申告することになります。
NRDSPの契約当事者がフィリピン国外(日本)に所在し、かつ、当該外国(日本)企業が異なる市場(フィリピン子会社を含む)と費用を分担する場合、そのフィリピン子会社が消費するデジタルサービスに対する分担費用はVATの対象となります。
この場合、そのフィリピン子会社はVATを源泉徴収しBIRに納付する義務を負います。
RSM Philippinesは、その影響を受ける非居住外国法人に対して、NRDSPとしての登録および登録後その他税務コンプライアンス要件の遵守を支援しています。
登録期限は2025年7月1日まで延長されますが、NRDSPは2025年6月2日より付加価値税の対象となります。
 BIRは、2025年2月27日、電子インボイスおよび電子売上報告システム(Electronic 
Sales Reporting System:ESRS)に関する、歳入規則第11-2025号(Revenue 
Regulations No. 11-2025)を公布しました。
本規則において、電子インボイスとは、商品、財産、サービスの売買、交換または譲渡、または財産の賃貸借・使用を証明する書面の記録で、通常の取引または事業活動において、BIRに登録・認可されたインボイス管理ツールを備える会計・インボイスソフトウェアまたはシステムを用いて発行されるものと定義されています。
また、ESRSとは、構造化された電子フォーマットにより、BIRに対して手動入力なしのシステム間直接データ転送を通じて、電子インボイスデータを保存、送信または受信する電子報告またはプロセスと定義されています。
電子インボイスデータには、売り手の買い手に対する売上情報が含まれており、買い手の支払情報が含まれる場合もあります。
本規則の発効日から1年以内または2026年3月14日までに、下記納税者は電子インボイスを発行することが義務付けられています。
①電子商取引(eコマース)またはインターネット取引に従事する納税者
②大規模納税者サービス(Large Taxpayers Service:LTS)管轄下にある納税者
③大規模納税者(Large Taxpayers)に分類される納税者
④電子インボイス機能を備えるコンピュータ会計システム(Computerized Accounting 
 System:CAS)およびコンピュータ化された会計帳簿(Computerized Books of 
 Accounts:CBA)その他BIRに正式登録されているインボイスソフトウェアを使用す
 る納税者
BIRに送信されるべき必要なデータを保存・処理できるシステムを確立した時点において、下記納税者も電子インボイスの発行が義務付けられます。
①物品およびサービスの輸出に従事する納税者
②税制優遇措置の適用を受ける登録企業
③販売時点情報管理システム(Point-of-Sales(POS)System)を利用する納税者
④その他BIR長官(the Commissioner of Internal Revenue)が必要と認める納税者
最終的に、BIRが送信されるべき必要データを保存・処理できるシステムを確立した時点において、これらの納税者はESRSを通じて売上データをBIRに電子報告することが義務付けられます。
電子インボイスを発行する義務を負う納税者および自主的に電子インボイスを発行し、売上データを電子的にBIRに報告する納税者は、ESRS導入に要する総費用の一定割合に相当する下記の課税所得からの追加控除が認められる場合があります。
①小零細規模納税者:ESRS導入に要する総費用の100%を課税所得から追加控除
②中・大規模納税者:ESRS導入に要する総費用の50%を課税所得から追加控除
 追加控除は、ESRSが完成する課税年度または最終支払いが行われる課税年度において、一度のみ適用を受けることができます。
 ESRS導入に関する輸入品についても、課税が免除される場合があります。
RSM Philippinesは、BIRにCASを登録する手続きを支援しています。
 フィリピン最高裁判所は、2022年8月30日、「Aces Philippines Cellular Satellite 
Corp.対内国歳入庁長官」事件(GR. No. 226680)の判決を宣告しました。
 この判決は、2024年1月10日に発行された歳入覚書通達第5-2024号(Revenue 
Memorandum Circular No. 5-2024)、および税務調査における不足税額および罰金を課する根拠としてBIRに採用されました。
 BIRは、本通達において、非居住外国法人とのクロスボーダー活動および取引に対する最終源泉徴収税(Final Withholding Tax :FWT)および最終源泉徴収付加価値税(
Final Withholding Value-Added Tax:FWVAT)の評価フレームワークを示しました。
 本通達発行前においては、フィリピン国外の非居住外国法人が提供するサービスは、
25%のFWTおよび12%のFWVATの対象とはなりませんでした。
BIRは、本通達において、「フィリピンにおける所得創出活動が本質的で不可欠である場合、当該活動から生じる所得は、支払いが最終的にどこで受領されるかに関わらず、税務上フィリピンを源泉とするものとみなされる」「この原則は、所得創出に本質的で不可欠なサービスまたは要因を提供する管轄区域がその所得に課税する権利を有するべきであると考える受益者負担説と一致する」ことを明確にしました。
 本通達は、下記のサービスを対象とします。
言い換えるならば、BIRは、たとえサービスがフィリピン国外で提供される場合であっても、そのサービスの利用が現地企業に便益をもたらし、その事業運営に不可欠であると認められるときは、非居住外国法人に行われる所得支払いに対して課税することができます。
 ただし、BIRは、前述のガイドラインを用いて所得の源泉がフィリピン国内にあると確定した場合であっても、当該納税者が特定の租税条約の適用を申請することにより、フィリピン国内に生じたまたは源泉となる所得(事業利益、配当、ロイヤルティまたは利子など)が恒久的施設を有しないことにより所得税が免除される場合においては、優遇税率の対象となることを主張することができることを明確にしました。
 すなわち、恒久的施設を有しないことによる事業利益の免税などの租税条約の優遇措置の適用は、所得の源泉地がフィリピンであることが前提となります。
 本通達から生ずる負の影響に対して、日本の銀行のフィリピン支店を含む複数の銀行が、2024年3月にフィリピン租税裁判所(Court of Tax Appeals:CTA)に対して、上訴および差止申立書(Petitions for Certiorari and/or Prohibition)を提出し、歳入覚書通達第5-2024号の有効性に異議を申し立てました。
 しかしCTAは、2024年11月11日、原告が行政上の救済措置を講じていないことを理由にその申立てを棄却しました。
 CTAは、銀行側はまずフィリピン財務大臣(Secretary of Finance)に問題提起すべきであると述べました。
 CTAは、税法において、税法その他租税に関する法令を解釈する権限は、財務大臣による審査の対象となることを条件として、BIR長官の専属的かつ第一審管轄権に属することが定められていると述べました。
 この点、本件において、申立人は、CTAに提訴する前に財務大臣に問題提起していないため、行政上の救済措置を講じてないものとされました。
 また、CTAは、上訴および差止申立書の提出は時期尚早であると指摘しました。
 裁判所の規則において、上訴および差止申立は、通常の法的手続きにおいて明白、迅速かつ十分な救済措置が存在しない場合にのみ利用可能であることが定められています。
 CTAは、CTAに提訴する前に、税法に基づいて、財務大臣に問題提起する救済措置が利用可能であると判断しました。
 すなわち、申立人は通常の法的手続きにおいて明白、迅速かつ十分な救済措置を有しているにも拘らず、それを利用していなかったとされました。
その後、銀行側は再審請求を提訴しました。
 CTAは、2025年5月14日に決定を下し、銀行側が提出した再審請求を棄却しました。
 CTAの本件棄却および銀行側の今後の対応を鑑みて、納税者は本通達を踏まえたFWTおよびFWVATの取扱いを再検討することを推奨します。
デジタル化およびクロスボーダー取引に関する法改正に加えて、フィリピンで最近公布されたその他の注目すべき法改正についてご紹介します。
 フィリピン共和国法第12214号(Republic Act No. 12214)「資本市場効率化促進法(Capital Markets Efficiency Promotion Act:CMEPA)」が、2025年7月1日に施行されました。
 CMEPAは、内国歳入法を改正し、貯蓄を奨励し資本市場を発展させるために、より簡素で効率的かつ地域競争力のある受動所得(Passive Income)に対する課税制度を提供することを目的としています。
 主な改正点は下記の通りです。
1.ロイヤルティが一般の所得税ではなく最終税率20%の対象となるためには、受動所得
 に該当する必要があります。
  受動所得とは、納税者が能動的に事業活動を行わずに得られる所得であり、内国歳入
 法に基づくVATの対象とはなりません。
2.外貨預金からの利子所得に対する最終税率は、15%から20%に引き上げられました。
3.外国法人株式の売却は、現行15%のキャピタルゲイン税(Capital Gains Tax:
 CGT)の対象となります。
  従来は内国法人株式のみがCGTの対象でした。
4.ストックオプション、譲渡制限付株式ユニット(Restricted Stock Unit:RSU)、
 ストックアプリシエーションライト(Stock Appreciation Right:SAR)などの株式
 報酬は、権利行使時に納税者の総所得に含まれます。
5.プロジェクトボンド(Project-Specific Bond)の利子所得およびプロジェクトボン
 ドの売却、譲渡または処分による利益は、課税対象となる総所得から除外されます。
  これは、フィリピン共和国またはその機関が発行する債券で、フィリピン開発計画
 (Philippine Development Plan)またはこれに相当するものに規定される資本支
 出またはプログラムならびにその他国家政府の最優先プログラムを目的とするもの
 としてフィリピン財務大臣が定めるものです。
6.投資信託(Mutual Fund)および投資法人(Unit Investment Trust Fund)の投資
 口または受益権の解約による利益は、課税対象となる総所得から除外されます。従来
 は、投資信託の解約のみが 除外されていました。
7.フィリピン国内証券取引所に上場し取引されている株式の売却または交換に対する株
 式取引税(Stock Transaction Tax:STT)は、0.6%から0.1%に引き下げられまし
 た。
8.外国証券取引所に上場し取引されている内国法人の株式の売却または交換に対する
 STTは0.1%となります。
9.ピックアップトラックに対する物品税(Excise Tax)免除が廃止されました。
 ハイブリッド車および電気自動車に対する50%および100%の物品税免除は据え置か
 れました。
10.株式の新規発行に対する印紙税(Documentary Stamp Tax:DST)は、1%から
 0.75%に引き下げられました。
11.債務証書に対するDSTは0.75%に据え置かれました。
  ただし、当該貸付を担保するために発行される貸付契約、約束手形、抵当権、動産担
 保権その他の契約に対して、一のDSTのみが課されることになります。
 フィリピン労働雇用省(Department of Labor and Employment:DOLE)は、2025年1月、フィリピンにおける外国人雇用に関する新規則・規制を定めるために、DOLE省令2025年第248号(DOLE Order No. 248, Series of 2025)を公布しました。
 また、2025年6月に公布されたDOLE省令2025年第248-A号(DOLE Order No. 248-A, Series of 2025)は、技能研修プランおよび外国人雇用許可(Alien Employment Permit:AEP)について定める特定の規則を改正し、さらなる明確化を図りました。
主な規則は下記の通りです。
RSM Philippinesのご紹介

Mildred R. Ramos
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PDF:【フィリピン】デジタルサービス、クロスボーダー取引、資本市場効率化促進法等の注目すべき法改正
本稿はRSM Philippines(監修者)から寄稿された原稿に依拠して作成しております。本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではございません。本稿に記載されている情報は一般的なものであり、必ずしも貴社の状況に対応するものではございません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがございます。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではございません。個別事案の検討・推進に際して、貴社において何らかの決定をする場合は、貴社の顧問税理士等、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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