【台湾】クロスボーダーeコマース税籍登録基準額引上げおよび改正中小企業発展条例に基づく「新規雇用」「従業員昇給」に対する割増損金算入について
本稿では、RSM Taiwanからの寄稿により、初めて台湾進出を検討している日本企業および既に台湾進出している日本企業に対して、台湾労働法および税法改正等の役立つ情報をお伝えします。
目次
・最低賃金
2025年1月1日より、台湾の最低賃金月額は27,470台湾ドルから28,590台湾ドル、また、最低時給は183台湾ドルから190台湾ドルに引き上げられ、約4.08%の上昇となりました。
・労働保険料率
台湾の労働保険制度における普通災害保険料率は、2025年に12%から12.5%に引き上げられました。
最低賃金の改定に伴い、台湾の労働年金制度における標準報酬月額の第24級が28,590台湾ドルに改訂されました[1]。
台湾労働保険局(Bureau of Labor Insurance)は、それに応じて保険料および年金保険料を自動的に改訂します。
2025年2月、台湾労働部は「職務執行中の不法侵害予防ガイドライン」第4版[2]を公布しました。
職場いじめ予防に関する新たな章が追加され、予防最優先のアプローチを強調するとともに、安全、健全かつ友好的な職場文化を育むために、労働者、経営者、政府による共同の取組みを奨励しています。
[1] 勞動部勞工保險局「勞工退休金月提繳分級表」
[2] 勞動部職業安全衛生署「執行職務遭受不法侵害預防指引」
台湾財政部(Ministry of Finance:MOF)は、2025年4月7日、台湾における小規模企業向け営業税(Business Tax:日本の「消費税」に相当する)の改正基準額と一致させるため、台湾付加価値型および非付加価値型営業税法(Value-Added and Non-Value-Added Business Tax Act:営業税法)第6条第4項[3]に基づく税籍登録義務の年間売上高基準額を、従来の48万台湾ドルから60万台湾ドルに引き上げることを発表し、即時施行されました。
本改定は、台湾の個人消費者に対して、インターネットまたはデジタルプラットフォームを通じて電子サービスを提供する、台湾に固定的営業所を有しない外国企業・機関・組織・団体(海外電子商取引業者)に適用されます。
2017年5月1日より、台湾は越境デジタルサービスに対して営業税を課しています。
従来の48万台湾ドルの基準額は、国内デジタルサービスプロバイダー向け月額基準額である4万台湾ドルと一致していました。
2024年12月12日台湾財政部令(Ministry of Finance Order)に基づき、当該月間基準額が5万台湾ドルに引き上げられたことに伴い、海外プロバイダーの基準額も60万台湾ドル(5万台湾ドル×12月)に改定されることになりました[4]。
MOFは、基準額の引上げに加えて、クラウドインボイス(Cloud Invoice)発行と税務申告義務履行の重要性を強調しました。
営業税法第47条3に基づき、インボイスを発行しない海外事業者は、行政処分を受ける可能性があります。
課税回避に関与している場合、営業税法第51条または第52条3、もしくは台湾税務調査徴収法(Tax Collection Act)第44条[5]に基づき、より重い罰則を科されることがあります。
海外電子商取引業者は、購買者の身元を確認するメカニズムを導入しなければなりません。
購入者は、台湾国内の納税者番号を有する事業者または源泉徴収税番号を有する機関である場合、営業税法第36条3に基づき、営業税を申告納付する責任を負います。
[3] 財政部「加值型及非加值型營業稅法」
[4] 財政部「境外電商營業人應申請稅籍登記之年銷售額基準由新臺幣48萬元調高至60萬元」
[5] 財政部「稅捐稽徵法」第44條
アメリカの関税政策の影響を受ける台湾企業が直面する業務上の課題に対処するため、MOFは2025年6月4日「財政部地方国税局におけるアメリカ関税政策の影響を受ける事業者からの過払営業税還付申請審査に関する運営通達[6]」を公表しました。
本通達は、営業税法第39条第2項3の規定に基づく還付処理を円滑化するために発行され、これにより適格事業者における資金繰りの制約を緩和し、事業を継続することを支援するものです。
① 法的根拠と政策意図
営業税法第39条第2項3によれば、免税売上高、固定資産の取得および合併・譲渡・解散・廃止による事業登記抹消以外の事由による営業税は、原則として、将来の納税義務と相殺するために繰り越す必要があります。
ただし、特段の事業がある場合は、MOFが還付を承認する場合があります。
MOFは、中央レベルの承認遅延が運転資金の効率的活用を妨げる可能性があることを認識し、地方の国税局に対して、MOFによる個別案件ごとの承認を必要とすることなく、より柔軟に直接還付申請を処理する権限を委譲しました。
②主な規定
還付は、アメリカの関税政策が実施されている期間(2025年4月9日より)申請することができます。
公表日時点で営業税登録が有効である事業者は、申請することができます。
イ)所轄中央省庁がアメリカの関税政策への対処として、救済、補助、補償または援助等
の関連措置を施した事業者
ロ)アメリカの関税政策の影響により、営業収益が減少した事業者
本通達に基づき還付可能な営業税の累計額は、1納税者につき30万台湾ドルが上限となります。
それを超える過払営業税は、将来納税すべき営業税と相殺するために繰り越さなければなりません。
納税者は、適用期間内に、申請書と添付書類を、事業所所在地の所轄国税局に提出しなければなりません。
③実施原則と支援
MOFは、地方国税局が事業運営と資金繰りニーズを支援するため、利便性、寛容性および簡便性の原則に基づき申請処理することを強調しました。
また、納税者を支援するため、MOFは専用ウェブサイト[7]に本通達全文、申請書様式、国税局相談窓口の連絡先情報を掲載しています。
[6] 財政部「各地區國稅局受理營業人因美國關稅政策影響申請退還營業稅溢付稅額審核作業原則」
[7] 財政部「因應美國關稅我國出口供應鏈支持方案財政支持措施」
より多様な人材の雇用促進と企業の従業員給与引上げを奨励するため、改正台湾中小企業発展条例[8]が、2024年8月7日に公布されました。
これにより「新規雇用」および「従業員の昇給」に対する割増損金算入の適用条件が改正されました。
また、関連規則が2024年12月に公布され、2024年度営利事業所得税(Corporate
Income Tax:日本の「法人税」に相当する)申告書様式は、これに応じて改訂されました。
① 適用要件
| 新規雇用 | 従業員の昇給 |
| 1. 改正台湾中小企業発展条例第2条[8]に定める中小企業(台湾中小企業認定標準第2条[9]に定める資本金1億台湾ドル以下または常時雇用従業員200人未満)に該当する。 (注:外国企業の支店及び駐在員事務所は対象外) | 1. 改正台湾中小企業発展条例第2条[8]に定める中小企業(台湾中小企業認定標準第2条[9]に定める資本金1億台湾ドル以下または常時雇用従業員200人未満)に該当する。 (注:外国企業の支店及び駐在員事務所は対象外) |
| 2. 24歳以下または65歳以上の台湾国籍従業員2名以上雇用する[10]。 | 2. 当年度の平均給与支給基準は前年度の平均給与支給基準を超える[11]。 |
| 3. 当年度の給与支給総額は前年度の給与支給総額を超える[10]。 | 3. 昇給は若年従業員[12]に適用され、法定最低賃金改定のみによるものではない[11]。 (注:2024年最低賃金月額27,470台湾ドル) |
| 4. 新規採用従業員の給与は最低賃金以上である[10]。 (注:2024年最低賃金月額27,470台湾ドル) |
② 割増損金算入
| 新規雇用 | 従業員の昇給 |
| 新規雇用従業員の給与支給総額の200%を上限として損金算入することができる [13]。 | 若年従業員の給与支給増加額の175%を上限として損金算入することができる [13]。 |
注意
③ 必要書類
| 新規雇用 | 従業員の昇給 |
| 労働保険加入者名簿(当年度および過年度分) 新規雇用従業員の労働保険加入データ 申告書様式 その他要件を証する書類[15] | 当年度および過年度の給与明細 昇給した従業員の労働保険加入データ 両年度の一般従業員給与所得サマリー 申告書様式 その他要件を証する書類[16] |
④ 留意点
改正台湾中小企業発展条例に基づく税制優遇措置の適用を受ける場合、最低税負担制度の基本所得の計算上、それに対応する所得を算入しなければならない。
企業は、予期せぬ税務コストを回避するため、当該優遇措置の適用を受ける前に、税務上の影響を総合的に検証することが推奨されます。
本改正条例は2033年12月31日まで適用されます。
[8] 經濟部「中小企業發展條例」
[9] 經濟部「中小企業認定標準」
[10] 經濟部「中小企業增僱員工薪資費用加成減除辦法」第4條
[11] 經濟部「中小企業員工加薪薪資費用加成減除辦法」第4條
[12] 「若年従業員」とは、中華民国国籍を有し、中小企業と無期雇用契約を結び、かつ次のいずれかに該当する者をいう。
①フルタイム従業員で、平均月額基本給が所定額を超えない者
②月給制パートタイム従業員で、平均月額基本給が所定額を超えない者 ③日給制(または時給制)パートタイム従業員で、賃金が所定額を超えない者
[13] 經濟部「中小企業發展條例」第36條2
[14] 財政部「所得稅法」第24條
[15] 經濟部「中小企業增僱員工薪資費用加成減除辦法」第6條
[16] 經濟部「中小企業員工加薪薪資費用加成減除辦法」第6條
背景
ある台湾企業は2022年1月に自動車製造設備を1,800万台湾ドルで取得した。
外国親会社の内部規程に基づき、当該設備は残存価額ゼロとして定額法により6年間にわたり減価償却され、年間300万台湾ドルの減価償却費が生じた。
税務
MOF公表の「固定資産耐用年数表」によると、当該設備の最低耐用年数は10年である。
したがって、減価償却費は300万台湾ドルではなく180万台湾ドルとすべきである。
修正
過大な減価償却費120万台湾ドル(300万台湾ドル-180万台湾ドル)が修正され、営利事業所得税24万台湾ドル(120万台湾ドル×20%)が追徴課税された。
考察
税務当局は、割増償却の特別優遇措置が適用される場合を除き、減価償却は法定耐用年数に基づいて行わなければならないことを改めて示しました。
法令遵守しない場合、税務上の修正や追加の納税義務が生じる可能性があります。
企業が会計上「固定資産耐用年数表」と異なる残存価額及び耐用年数を見積もる場合があっても、その差異は「一時差異」とみなされ、会計・税務の差異は将来の年度において解消されることがあります。
背景
ある台湾企業は、投資先企業の破産により、2022年度の確定申告において、5億台湾ドルの投資損失を計上した。
会社は、破産管財人による第1回配当計画の承認に関する裁判所の通知を提出した。
税務
台湾の営利企業の所得税制上の現行評価基準においては、破産に起因する投資損失は、裁判所が破産手続きの終了を宣言する判決を下した時点にのみ認識される。
修正
提出された書類は破産手続終了に関する裁判所の最終判決を反映したものではなかったため、5億台湾ドルの損失は修正され、1億台湾ドルの営利事業所得税の不足額が課された。
考察
この事例は、税務上の認識と法的完了性との整合を図ることの重要性を示しています。
税法で要求される通り、破産手続きの終了を明確に証明する書類を提出しなければなりません。
背景
2025年3月28日、ある台湾の上場企業が、中国子会社(蘇州支社)の財務部従業員が書類を偽造し、会社資金を横領した疑いがあることを公表した。
調査
影響
考察
蘇州子会社は中核企業ではないものの、この事件は海外子会社における強固な内部統制の重要性を示しています。
運用管理における職務分掌の強化、印鑑管理体制の強化および定期的内部監査は、不正リスクを軽減するために不可欠となります。
RSM Taiwanのご紹介

Joanne Kuo
Managing Partner
本稿のお問合せ
株式会社東京共同ホールディングス
事業開発企画室
TEL:080-7672-4467
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PDF:【台湾】クロスボーダーeコマース税籍登録基準額引上げおよび改正中小企業発展条例に基づく「新規雇用」「従業員昇給」に対する割増損金算入について
本稿はRSM Taiwan(監修者)から寄稿された原稿に依拠して作成しております。本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではございません。本稿に記載されている情報は一般的なものであり、必ずしも貴社の状況に対応するものではございません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがございます。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではございません。個別事案の検討・推進に際して、貴社において何らかの決定をする場合は、貴社の顧問税理士等、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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