取引単位営業利益法と移転価格管理

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取引単位営業利益法と移転価格管理

 取引単位営業利益法は、独立企業間価格算定方法として実務上もっともよく採用される方法です。実際に国税庁が昨年11月に公表した「令和5事務年度の「相互協議の状況」について」(注1)において、事前確認および移転価格課税による相互協議における独立企業間価格の算定方法内訳は、209処理事案のうち99事案において取引単位営業利益法が採用されていました。
 取引単位営業利益法は、一の関連者間取引から稼得した営業利益につき、適切なベース(例えば、コスト、売上高、資産)に対する営業利益を検討するものです(注2)。すなわち、国外関連取引における一方の当事者の営業利益指標が比較対象企業の営業利益指標と同水準になるように独立企業間価格を算定するものです。

 独立企業間価格算定方法として取引単位営業利益法を採用している場合には、国外関連取引における一方の当事者の営業利益指標が比較対象企業の営業利益指標のレンジに収まるように事業年度中に価格改定を行ったり、事後的な価格調整を行ったりすることにより移転価格管理を行うことが一般的です。

注1 令和5事務年度の「相互協議の状況」について(令和6年11月)(PDF/504KB)
注2 OECD租税委員会「OECD多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドライン2022年版」 国税庁による仮訳(PDF/4,005KB) (以下「OECD移転価格ガイドライン」)パラ2.64

目次

「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の「再生型私的整理手続」について解説

取引単位営業利益法の適用

 取引単位営業利益法は、国外関連取引の一方の当事者の営業利益指標が定型的な事業を行っている比較対象企業の営業利益指標と同水準になるように独立企業間価格を算定する方法であるため、取引の各当事者がユニークで価値のある無形資産に貢献している場合、取引単位営業利益法は信頼性があるとは考えにくく、一方の当事者が関連者間取引に関係する全てのユニークで価値のある貢献をしており、他方の当事者がユニークで価値のある貢献を一切していない場合に適用できるとされています(注3)

 したがって、単純な販売機能を果たす国外関連者である販売子会社への販売取引や単純な加工を行う製造子会社からの購入取引等に適用可能であると考えられます。この場合、営業利益指標を検証する検証対象者は、国外関連取引の当事者のうち複雑性の低い方の当事者になるとされています(注4)


注3 OECD移転価格ガイドライン パラ2.65
注4 OECD移転価格ガイドライン パラ2.65、
別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集(PDFファイル/1,867KB) 事例6

取引単位営業利益法の長所と短所

 取引単位営業利益法の長所は、営業利益指標は取引価格よりは取引上の差異によって受ける影響が少なく、粗利益に比べて、関連者間と非関連者間の取引の機能の差異に対して寛大であることです。各企業が果たす機能の差異は、しばしば営業費用の差異に反映されるからです。また、検証する財務指標が、国外関連取引の一方の当事者(「検証対象」当事者)の財務指標のみであるということも長所としてあげられます(注5)

  一方、 取引単位営業利益法の短所として、営業利益指標は、非関連者間の価格又は粗利益に対しては影響を及ぼさない又は実質的若しくは直接的な影響がより少ない要因から影響を受けることがあります(注6)。例えば、売上高が増加すれば、営業固定費の存在により、営業利益率の上昇は、売上高増加割合より高くなります。


注5 OECD移転価格ガイドライン パラ2.68、2.69
注6 OECD移転価格ガイドライン パラ2.70

営業利益指標

 取引単位営業利益法を適用する場面において、異なる営業利益指標が用いられます。例えば、単純な販売機能を果たす国外関連者である販売子会社への販売取引においては、販売子会社の売上高総利益率が販売子会社の比較対象企業と同水準になるように独立企業間価格を算定します(注7)。この場合、独立企業間価格は、以下のように算定されます(措法令39の12⑧二)。

販売子会社の再販売価格 - (販売子会社の再販売価格 × 比較対象取引における売上高営業利益率

 また、単純な加工を行う国外関連者である製造子会社からの購入取引等においては、製造子会社の総費用営業利益率が比較対象企業と同水準になるように独立企業間価格を算定します。独立企業間価格は、以下のように算定されます。この場合、独立企業間価格は、以下のように算定されます(措法令39の12⑧三)。

製造子会社の製品取得原価の額 + (取得原価の額 + 販売費及び一般管理費の額)
× 比較対象取引における総費用営業利益率 + 販売費及び一般管理費

 さらに、海外子会社が在庫を持たず、広告販売活動を行わず、親会社の指示にもとづいて販売する仲介機能のみを行う国外関連者である販売子会社への販売取引においては、販売子会社の営業費用売上総利益率(ベリー比)が販売子会社の比較対象企業と同水準になるように独立企業間価格を算定します(措法令39の12⑧四)(注8)。この場合、独立企業間価格は、以下のように算定されます。

販売子会社の再販売価格 - 販売子会社の販売費及び一般管理費の額 × 比較対象取引におけるベリー比

ベリー比 = (営業利益 + 販売費及び一般管理費の額) (= 売上総利益)/ 販売費及び一般管理費の額

注7 別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集(PDFファイル/1,867KB) 事例6 前提条件1
注8 別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集(PDFファイル/1,867KB) 事例6 前提条件2

取引単位

 取引単位営業利益法は、国外関連者の一方の当事者の国外関連取引にかかる営業利益指標を比較対象企業の営業利益指標と同一水準にするように独立企業間価格を算定する方法であるので、国外関連取引にかかる切出損益(セグメント損益)を算定できるようにしておくことが必要です。例えば、国外関連者である販売子会社が親会社から製品を輸入して再販売すると同時に第三者から製品を購入して再販売している場合に、検証するのは、親会社から製品を輸入して再販売する取引の営業利益率であり、子会社全体の営業利益率ではないことに留意しなければなりません。下の表において比較対象企業の営業利益率のレンジが4%~9%であったとすると、全社の営業利益率は7.5%でレンジに収まりますが、国外関連取引の営業利益率はレンジを超えており、親会社の販売価格が独立企業間価格より低いことを示唆します。取引単位営業利益法を適用するためには、国外関連取引にかかる切出損益(セグメント損益)を作成できるようにすることが重要です。

親会社輸入品第三者調達品全社
売上高100100200
売上原価7075145
売上総利益302555
販売費及び一般管理費202040
営業利益10515
営業利益率10%5%7.5%

営業利益指標のレンジ

 比較対象取引が複数存在し、独立企業間価格が一定の幅を形成している場合において、当該幅の中に当該国外関連取引の対価の額があるときは、当該国外関連取引については移転価格課税(措置法第66条の4第1項の規定の適用)されることはないものとされています(措置法通達66の4(3)-4)。

 比較対象取引は、国外関連取引との類似性の程度が十分な非関連者取引であり、取引単位営業利益法における比較対象取引の営業利益指標は、国外関連取引との類似性の程度が十分な非関連者取引加えた後の割合である必要があります。令和元年改正前は、必要な調整を加えることができない場合には比較対象取引として独立企業間価格の算定に用いることができませんでした。

 令和元年改正により、定量的に把握することが困難な差異が、その差異以外の調整対象差異につき必要な調整を加えるものとした場合に計算される割合(以下「調整済割合」といいます。)に及ぼす影響が軽微と認められるときには、統計的手法(いわゆる四分位法)を用いた差異調整により算出した割合に基づいて独立企業間価格を算定することができることとされました(措令39の12⑧、措規22の10②~⑤)(注9)

 実務上、取引単位営業利益法を適用する場合、財務データベースから複数の比較対象取引を選定して四分位法を用いて営業利益指標のレンジを作成することが多いように思われます。


注9 令和元年度「税制改正の解説」国際課税関係の改正、財務省

移転価格管理

 取引単位営業利益法の適用において、国外関連取引の一方の当事者の営業利益指標が比較対象取引の営業利益指標の四分位レンジ内にあれば、移転価格課税を受けることはないため、国外関連取引の一方の当事者の営業利益指標をモニタリングして比較対象取引の四分位法を用いた営業利益指標のレンジに収まるように事業年度中に価格改定を行ったり、期末に事後的な価格調整を行ったりします。

 事後的な価格調整により、国外関連者に対する金銭の支払又は費用等の計上が行われる場合には、当該支払等合理的な理由に基づくものであれば、取引価格の修正が行われたものとして取り扱われますが、合理的な理由に基づくものと認められない場合には、国外関連者に対する寄附金として扱われます。合理的な理由に基づくものであるかどうかは、当該支払等に係る理由、事前の取決めの内容、算定の方法及び計算根拠、当該支払等を決定した日、当該支払等をした日等を総合的に勘案して検討されます(注10)


注10 移転価格事務運営要領 第3章 調査 3-21(価格調整金等がある場合の留意事項)

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「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の「再生型私的整理手続」について解説

なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
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執筆者

  • 石塚 洋一

    東京共同会計事務所 事業開発企画室 シニアアドバイザー
    公認会計士
    税理士

    監査法人にて監査業務を経験後、税理士法人にて税理士法人にて税務コンプライアンス、税務アドバイザリー業務に従事。特に国際税務の分野で、多国籍企業の税務ガバナンス、税務調査対応と税務争訟、移転価格における調査対応・相互協議、事前確認、国際取引についての税務アドバイス業務を専門とする。また、大学発スタートアップ企業等の監査役、会計専門職大学の租税法担当教員の経験を有する。

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