【フィリピン】ビジネス・経済・会計・税務・金融・労務ニュース

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【フィリピン】ビジネス・経済・会計・税務・金融・労務ニュース

 本稿では、RSM Philippinesからの寄稿により、初めてフィリピン進出を検討している日本企業および既にフィリピン進出している日本企業に向けて、フィリピンのビジネス・経済・会計・税務・金融・労務に役立つ情報をお届けします。

フィリピン経済・ビジネス・産業の概要

 フィリピンは、旺盛な国内消費、都市化の進展、若く熟練した労働力を原動力とする、東アジア・太平洋地域で最もダイナミックな経済地域の一つです。
 2024年上半期の経済成長率は6.0%に達し、同地域で最も好調な国の1つとなっています。

 この成長は、インフラ、人的資本およびさまざまな開発イニシアチブに対する政府投資によって支えられています。
 フィリピンは、ビジネスしやすい環境づくりを目指す政府のコミットメントに支えられ、製造、テクノロジーおよびエネルギーの分野において、フィリピン進出する日本企業に大きなチャンスを提供しているのです。

 フィリピン中央銀行(The Bangko Sentral ng Pilipinas:BSP)とフィリピン統計局(The Philippine Statistics Authority:PSA)が発表した情報によると、2024年度において、日本はフィリピンの投資環境において重要な役割を果たし、承認された外国投資総額5,436億2,000万ペソのうち286億7,000万ペソを拠出しています。
 これら日本からの投資は、主に製造、不動産およびエンターテインメント分野に集中し、電子機器、自動車部品、機械のような産業におけるフィリピンと日本との歴史的パートナーシップと一致しています。
 フィリピンがハイテク製造やエネルギー開発のハブとして位置づけられる中、日本企業はこれら成長分野に投資するのに適確なポジションに位置しています。

 日本企業にとっての主要分野は、製造、特に半導体、電気自動車(EV)、再生可能エネルギーなどです。
 最近施行された「企業再生および法人優遇税制(The Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprises:CREATE)法」は手厚い税制優遇措置を提供し、外国企業の事業設立と拡大を容易にするものです。
 2023年、投資委員会(The Board of Investments:BOI)は26億ペソに上る日本からの目ざましい投資を記録しました。
 貿易産業省(The Department of Trade and Industry:DTI)によると、これらの投資は再生可能エネルギー、情報通信、建設、不動産および運輸・倉庫に関わるものでした。
 日本の技術的専門知識は、フィリピンがハイテク製造業のハブとなるための推進力となる可能性がありますし、日本企業にとっては成長する再生可能エネルギー市場においてもチャンスがあります。

 製造業に加えて、フィリピンの活況を呈しているビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業が、引き続き日本企業を惹きつけています。
 この市場はIT、金融およびヘルスケアのアウトソーシングの需要増加に牽引され2024年に7%成長しました。
 これらの市場において日本企業は、顧客サービス、技術サポートおよびデータ分析に強みのあるフィリピンの英語を話す技能労働力の恩恵を享受することができます。
 フィリピンは競争力のある労働コストによって、品質を維持しながらも効率化を図りたい日本企業にとって理想的なアウトソーシング先となっています。

 今後、2024年通年の成長率は6.2%と予測されており、フィリピンの経済見通しは引き続き非常に良好です。
 「ビルド・ベター・モア(The Build Better More)」プログラムの下で進行中のインフラプロジェクトは、輸送、物流および再生可能エネルギーへの大規模投資とともに、日本企業にとって長期的なビジネスチャンスとなります。
 最近のフィリピン政府高官と日本の大手企業とのハイレベル会談に象徴される両国の協力関係の深まりは、東南アジアでの事業の多角化と拡大を目指す日本企業にとってフィリピンが戦略的パートナーであることを示しています。

日本企業が遵守すべき会社・会計・租税・金融・労働法

 日本企業は、フィリピン共和国に適用されるいくつかの法令と規制を遵守する必要があります。
 登録と金融に関する主な規制機関は、証券取引委員会(The Securities and Exchange Commission:SEC)、BSPおよび内国歳入庁(The Bureau of Internal Revenue:BIR)です。
 フィリピンを統治する主要な会社法は、2019年に施行された共和国法第11232号改正会社法です。
 同法によると、個人、パートナーシップ、社団または法人は、単独または15名以下の人数であれば他者と共同で法人を組織することができ、各発起人は少なくともその法人株式の1株以上を所有またはその引受人とならなければなりません。
 この点、外国投資家は、最低5,000ペソ(90ドル)以上の初期資本を払い込まなければなりません。
 ただし、さらに高い最低払込資本金を必要とする業種もあります。法人の存続期間は、定款に別段の定めがない限り永続します。

 全ての法人は、SECが許可する形式と方法により、署名、承認または認証された定款をSECに提出する必要があります。
 定款には、法人の名称、目的、本店所在地、存続期間、資本金、引受株式数、当初引受人、1株当たりの引受および払込金額、取締役の人数、発起人および当初取締役の氏名、国籍および住所を記載しなければなりません。
 また法人役員として社長、財務役および秘書役を選任しなければなりません。
 ただし、支店、駐在員事務所、地域統括会社および地域経営統括事業会社など、他の種類の事業体には別の要件があります。

 法人が法人格を認められるためにはSECに正式登録する必要があります。
 会計期間は、暦年(1月1日から12月31日まで)または事業年度(任意の12ヶ月間)のいずれかで、BIRの承認を得て法人の任意で選択することができます。
 選択した年度の如何を問わず、法人はBIRに年度所得税申告書を提出しなければなりません。

 フィリピンの法人所得税は、主に共和国法第8424号改正税法によって規定されています。
 標準所得税率は課税所得に対して25%ですが、課税所得が500 万ペソ以下、かつ、総資産が1億ペソ以下の中小零細企業(MSMEs)については、20%の軽減税率が適用されます。
 年度所得税申告書(BIR Form 1702-RT)は法人の課税年度終了後4か月目の15日までに提出しなければなりません。
 支店、駐在員事務所、地域統括会社、地域経営統括事業会社など、他の種類の事業体には異なる税率が適用されます。

 財務報告義務は、フィリピン財務報告基準(The Philippine Financial Reporting Standards:PFRS)および証券規制法(The Securities Regulation Code:SRC)によって規定されています。
 PFRSは国際財務報告基準(IFRS)に準拠しています。
 財務諸表は公認会計士(CPA)の監査を受け、SECに提出しなければなりません。

 フィリピンの雇用に関して、従業員と労働問題を監督する機関は労働雇用省(The Department of Labor and Employment:DOLE)です。
 大統領令第442号改正労働法は雇用を規制する主要な法律であり、雇用契約、最低賃金、労働者の権利に関する規定を網羅しています。
 PSAによると、2024年6月現在、フィリピンの雇用率は96.9%となっています。

日本企業に適用される投資優遇措置

 フィリピンには外国からの直接投資を奨励するための投資優遇措置がいくつかあります。
 これには、さまざまな税制優遇措置や投資保証および保護が含まれています。
 特に日本企業に向けては、商品、人、サービスおよび資本の国境を越えた自由な流れを促進することにより、両国間の貿易と投資機会を増やすために日本・フィリピン経済連携協定が締結されています。

税制優遇措置

 外国企業に適用される主な税制優遇措置は所得税の免除と軽減税率です。
 1987年オムニバス投資法(行政命令第226号)に基づいて適格外国投資家および企業に与えられる優遇措置の一つが所得税免除(Income Tax holiday:ITH)です。
 この優遇措置により、企業はフィリピンの戦略的投資優先計画(The Strategic Investment Priority Plan:SIPP)で決定された事業の性質と所在地に応じて、一定期間、法人所得税の支払いが100%免除されます。

 フィリピン経済全体を活性化させる主要産業に対する投資を誘致するため、SIPPは税制優遇措置を付与する具体的活動を挙げています。SIPPの活動は以下の3つに分類されます。

• ティアI:密集地域外で雇用機会を創出する活動、適格な製造活動、農林水産物の商業生産、戦略的サービス業、ヘルスケア・災害管理サービス、インフラおよび環境または気候変動関連サービスなどに対する投資が対象となります。
 この他に、輸出活動、特別法の対象となる活動、2020年投資優先計画(The Investment Priority Plan:IPP)に記載されているその他全ての活動も対象となります。

• ティアII:グリーン・エコシステムの促進やヘルスケア、防衛および食料安全保障に関する活動を通じて、競争力のあるレジリエントな経済を促進することを目的とした活動が対象となります。
 また、鉄鋼、繊維、化学およびグリーンメタル加工などにおける産業バリューチェーンのギャップに対処する活動も対象となります。

• ティアIII:研究開発、先進デジタル生産技術の採用、高度な技術を要する革新的製品・サービスの製造および生産、およびイノベーション支援施設の設立を通じて、経済の変革を加速させる活動が対象となります。
 これに該当するためには、企業は科学技術省(The Department of Science and Technology:DOST)などの関連政府機関から正式に承認されなければなりません。

 上記の活動に従事する企業が申請できるITHの期間は4年から7年です。
 また、特定の登録事業者(Registered Business Enterprises:RBEs)は、事業開始時から、追加控除制度(Enhanced Deductions Regime:EDR)または5%の特別法人所得税率(Special Corporate Income Tax:SCIT)を選択することができます。
 ただし、いかなる場合であっても、SCITと同時にEDRの適用を受けることはできません。
 さらに重要なことは、EDRに基づくRBEsは、登録プロジェクトまたは活動から得られる所得に対して20%の法人所得軽減税率の適用を受けられるようになることです。
 所在地と事業分類に応じた具体的な優遇措置期間は下記の通りです。

A.投資促進機関(Investment Promotion Agency)に認可された登録輸出企業(Registered Export Enterprises)の場合

所在地 / 事業分類ティアIティア IIティア III
マニラ首都圏4年間ITH

10年間EDR/SCIT
または
14年間EDR/SCIT
5年間ITH

10年間EDR/SCIT
または
15年間EDR/SCIT
6年間ITH

10年間EDR/SCIT
または
16年間EDR/SCIT
大都市圏および
マニラ首都圏近郊
5年間ITH

10年間EDR/SCIT
または
15年間EDR/SCIT
6年間ITH

10年間EDR/SCIT
または
16年間EDR/SCIT
7年間ITH

10年間EDR/SCIT
または
17年間EDR/SCIT
全てのその他の地域6年間ITH

10年間EDR/SCIT
または
16年間EDR/SCIT
7年間ITH

10年間EDR/SCIT
または
17年間EDR/SCIT
7年間ITH

10年間EDR/SCIT
または
17年間EDR/SCIT

B.投資促進機関(Investment Promotion Agency)に認可された国内市場企業(Domestic Market Enterprises)の場合

所在地 / 事業分類ティアIティア IIティア III
マニラ首都圏4年間ITH

10年間EDR
または
14年間EDR
5年間ITH

10年間EDR
または
15年間EDR
6年間ITH

10年間EDR
または
16年間EDR
大都市圏および
マニラ首都圏近郊
5年間ITH

10年間EDR
または
15年間EDR
6年間ITH

10年間EDR
または
16年間EDR
7年間ITH

10年間EDR
または
17年間EDR
全てのその他の地域6年間ITH

10年間EDR
または
16年間EDR
7年間ITH

10年間EDR
または
17年間EDR
7年間ITH

10年間EDR
または
17年間EDR

C.財政インセンティブ審査委員会(Fiscal Incentives Review Board:FIRB)に認可された登録輸出企業(Registered Export Enterprises)の場合

所在地 / 事業分類ティアIティア IIティア III
マニラ首都圏4年間ITH

20年間EDR/SCIT
または
24年間EDR/SCIT
5年間ITH

20年間EDR/SCIT
または
25年間EDR/SCIT
6年間ITH

20年間EDR/SCIT
または
26年間EDR/SCIT
大都市圏および
マニラ首都圏近郊
5年間ITH

20年間EDR/SCIT
または
25年間EDR/SCIT
6年間ITH

20年間EDR/SCIT
または
26年間EDR/SCIT
7年間ITH

20年間EDR/SCIT
または
27年間EDR/SCIT
全てのその他の地域6年間ITH

20年間EDR/SCIT
または
26年間EDR/SCIT
7年間ITH

20年間EDR/SCIT
または
27年間EDR/SCIT
7年間ITH

20年間EDR/SCIT
または
27年間EDR/SCIT

D.財政インセンティブ審査委員会(Fiscal Incentives Review Board:FIRB)に認可された国内市場企業(Domestic Market Enterprises)の場合

所在地 / 事業分類ティアIティア IIティア III
マニラ首都圏4年間ITH

20年間EDR
または
24年間EDR
5年間ITH

20年間EDR
または
25年間EDR
6年間ITH

20年間EDR
または
26年間EDR
大都市圏および
マニラ首都圏近郊
5年間ITH

20年間EDR
または
25年間EDR
6年間ITH

20年間EDR
または
26年間EDR
7年間ITH

20年間EDR
または
27年間EDR
全てのその他の地域6年間ITH

20年間EDR
または
26年間EDR
7年間ITH

20年間EDR
または
27年間EDR
7年間ITH

20年間EDR
または
27年間EDR

 登録輸出企業(Registered Export Enterprises)の場合は、所得税優遇措置の適用方法について、下記いずれかを選択することができます。

 a.ITHの適用を受けた後に5%のSCITまたはEDRの適用を受ける
 b.事業開始時から国または地方全ての税金・手数料・料金等の代わりとして5%のSCITの適用を受ける
 c.事業開始時からEDRの適用を受ける

 国内市場企業(Domestic Market Enterprises)の場合は、所得税優遇措置の適用方法について、下記いずれかを選択することができます。

 a.ITHの適用を受けた後にEDRの適用を受ける
 b.事業開始時からEDRの適用を受ける

 ITHおよびEDRまたはSCITの資格を得るためには、会社はBOIまたはフィリピン経済特区庁(Philippine Economic Zone Authority:PEZA)に登録されている必要があり、また、SIPPに定められている産業または経済に対する有益な活動に従事する必要があります。

 また同法は、地方自治体(Local Government Units:LGU)が条例に基づき、ITHおよびEDR期間中、総所得の2%以下の税率で登録事業者地方税(Registered Business Enterprise Local Tax:RBELT)を課すことができると定めています。
 2%のRBELTは、LGUが課す現地手数料および料金の代わりとなります。
 BOIによってパイオニア企業または非パイオニア企業と認定されたRBEsは、それぞれ6年間または4年間RBELTが免除されます。

 また、資本設備、原材料、スペアパーツまたは付属品の輸入に対する関税免除、輸入に対するVAT免除および現地購入に対するVATゼロレート課税など、その他非財政的優遇措置もあります。

日本との二国間協定(一定要件あり)

 2008年、フィリピンは日本との二国間自由貿易協定である日本・フィリピン経済連携協定(The Japan-Philippines Economic Partnership Agreement:JPEPA)を締結しました。 
 JPEPAでは、物品およびサービスの貿易を促進し、投資機会を増やすことを目的として、両国の貿易協力強化を促進するさまざまな分野を包括しています。
 例えば、JPEPAの規定には、物品に対する関税の特恵または軽減、サービスへのアクセスの容易化、技能労働者の流動化、情報交換と知的財産保護および両国のビジネス環境の改善などが含まれます。
 さらに、JPEPAで取り上げられているもう一つの重要な問題は投資家権利の保護です。
 投資の獲得と継続をさらに奨励するため、この協定は公正かつ公平な待遇と完全な保護と安全を保証しており、これはすなわち、両国が投資家の権利の擁護と追求について自国の投資家と同様に投資家を扱うことに同意していることを意味します。
 また、投資家は一定の条件の下に投資の収用から保護され、投資に関する全ての移転が自由かつ遅滞なく行われることが保証されています。

 JPEPAに加え、フィリピンは日本と二重課税防止協定(The Double Taxation Agreement:DTA)も締結しています。
 この協定により、配当、利子、ロイヤリティに対する源泉徴収税率の軽減を受けることができ、DTAを締結していない国よりも低い税率が適用されます。
 標準税率と協定税率との比較は下記の通りです。

所得協定税率標準税率
配当10%*または15%15%または25%
利子10%20%
ロイヤリティ10%または15%**25%

*  配当金を支払う会社の議決権株式の10%以上を所有する場合に適用される。
** 映画フィルム、ラジオ・テレビ放送用フィルムまたはテープの使用または使用権に適用される。

日本企業に影響する会社・会計・租税・金融・労働法の最新改正

会計・租税・金融法

 納税簡易化法(The Ease of Paying Taxes Act:EOPT)が2024年1月に施行されました。
 この法律は、1997年内国歳入法(フィリピン税法)に重要な改正を導入し、納税者の権利と福祉を保護し、最小の費用と人的資源の投入だけで容易に法令遵守する方法を提供することにより、税務行政を近代化することを目的としています。主な改正点は下記の通りです。

• どこででも申請して支払う仕組み
• 納税者の適正な分類
• サービスに対する付加価値税(VAT)は総収入ではなく総売上高に基づく
• インプットVATの立証はVATインボイスで十分となる
• VATインボイス発行要件としての「ビジネススタイル」の撤廃
• 年間登録料の廃止
• 経費控除の要件としての源泉徴収税の廃止

労働法

 2024年9月現在、新賃金命令NCR-25号(The new Wage Order No. NCR-25)に基づくマニラ首都圏の最低賃金(日額)は表の通りとなります。

産業部門新最低賃金(日額)
非農業645ペソ
農業608ペソ
サービスまたは小売業
(従業員15人未満)
608ペソ
製造業(従業員10人未満)608ペソ

日本企業が注意すべき会社・会計・租税・金融・労働に関する法令違反の潜在的リスク

 企業は、法令違反によって直面する可能性のある潜在的リスクに注意する必要があります。
 コンプライアンスを確実にするために注意すべき法令は、会社法をはじめ会計基準、租税、労働、環境、安全衛生、外国投資および許認可などに関する法令です。

税務申告納税の遅れ

 将来の租税に関連する罰則が課される可能性がある要因としては、税務申告書の提出遅延や、期限内未納付などが挙げられます。
 会社は加算税や延滞税が課される場合があります。
 脱税は、裁判所によって有罪と認められる場合には刑事事件となります。
 その他税金が未納の場合、BIRは徴税を開始するために資産の差し押さえを行うこともあります。
 さらに会社は下記の点に配慮する必要があります。

• 正確な会計帳簿を記録する
• 期限と延長について十分な知識を持つ
• 納税額とその納付の正確性をチェックする
• 取引報告の誤りを軽減するためにコンピュータ会計システムを導入する

財務報告基準の違い

 財務報告要件についても日本企業が直面する可能性のある課題です。
 日本では、財務諸表は企業会計基準委員会などが公表する日本における一般に公正妥当と認められる会計原則(J-GAAP)に従って作成されます。
 PFRS の主要な基準であるIFRSは日本においても採用されており、J-GAAPと類似点がありますが、測定基準、収益認識、財務諸表の全体的な表示および連結要件などに関しては、両基準間に大きな違いがあることを会社は認識しておく必要があります。
 このような重要な相違点を理解することは、フィリピンの各規制当局が義務づけている会計基準および財務報告基準に準拠しないことにより生じ得る問題を回避するために不可欠です。

雇用主要件の遵守

 労働法に関しては、フィリピン労働法(The Labor Code of the Philippines)および最低賃金に関する法令その他労働関連法規の主要規定、社会保険機構(The Social Security System)、住宅開発相互基金(The Home Development Mutual Fund)、フィリピン健康保険公社(The Philippine Health Insurance Corporation)などの要件遵守に注意することが極めて重要です。
 フィリピンで事業を行う場合、企業は行政罰または刑事罰の可能性を回避するために、これら法令の要件を遵守する必要があります。
 主な要件としては、更新された最低賃金に関する命令、労働時間および職場環境に関する最低条件、および従業員が権利を有する基本的な福利厚生の提供の遵守などが挙げられます。

 フィリピンで施行されているこれら法令に違反するリスクを軽減するために、企業は法律顧問やコンプライアンス担当者と契約して相談し、定期的監査を実施し、関連法令に関する厳格な従業員研修を実施することを徹底する必要があります。

フィリピン進出手続き

 フィリピンにおける外国企業の経済および商業活動への参入を定める法律は、1991 年外国投資法(The Foreign Investment Act:FIA)として知られる共和国法第 7042 号(1996年改正)です。
 外国人がフィリピンで事業を登録および申請するプロセスは下記の通りです。

• 事業体を登録しSECから法人設立証明書を取得する
• 納税者番号(Tax Identification Number)を取得しBIRで税務登録する
• 必要に応じて事業を営む市または自治体から事業許可を取得する

 FIA に基づき、払込資本金 が 20 万ドル未満の零細および小規模の国内市場企業はフィリピン国民専用となります。
 この点で、企業の払込資本金が 20万ドル未満の場合、国内市場における外国資本所有は認められません。
 したがって、外国資本の参加を認めるためには、最低20万ドルの払込資本金を準備しなければなりません。
 ただし、当該企業がフィリピン憲法および特定の法令に基づく他の外国人資本規制の対象でないことが条件となります。
 さらに、共和国法第11595号改正小売業自由化法(The Retail Trade Liberalization Act)では、外資企業はSECに登録することにより小売業に従事または投資することができ、そのためには最低払込資本金 として2,500 万ペソを有しなければならないと定めています。
 また、複数店舗を通じて小売業を営む外国人小売業者の場合、1店舗あたりの最低投資額は1,000万ペソ以上でなければなりません。

 SEC は最低払込資本金を下記の通り定めています。

外国資本が40%を超える内国法人
国内市場企業200,000ドル
輸出市場企業5,000ペソ
外国支社
国内市場企業200,000ドル
輸出市場企業5,000ペソ
外国パートナーとのパートナーシップ
国内市場企業200,000ドル
輸出市場企業3,000ペソ
外国駐在員事務所30,000ドル
地域統括会社50,000ドル
地域経営統括事業会社200,000ドル

 FIA は、外国企業(その統治下部組織を含む)からの生産的投資を誘致し、奨励し、受け入れるという国の政策を概説しています。
 これらの投資は、憲法および適用される法令で認められる場合、国家の工業化と社会経済の発展に著しく貢献するものでなければなりません。
 一定の権利と制限が、国家経済開発庁(The National Economic Development Authority:NEDA)が作成する、外国資本が一定割合まで禁止される経済活動リストである「外国投資ネガティブリスト(The Foreign Investment Negative List)」に規定されています。

 リストA-憲法および特定の法令義務により外国人所有の制限対象となる事業は下記の通りです。

事業外国資本
マスメディア(レコーディングおよびインターネット事業を除く)所有不可
払込資本金が2500万ペソ未満の小売業
協同組合(フィリピン出生者の投資を除く)
私立探偵、警備員または警備保障会社の組織および運営
群島水域、領海および排他的経済水域内における海洋資源の利用、および河川、湖、湾および潟における天然資源の小規模利用
闘鶏場の所有、運営および管理
核兵器の製造、修理、貯蔵および流通
生物、化学、放射線兵器および対人用地雷の製造、修理、貯蔵および流通(フィリピンが加盟する各種条約およびフィリピンが支持する協定等)
爆竹その他花火製品の製造
小規模鉱業
専門職(法令で特別に認められている場合を除く)
雇用斡旋(国内または国外のいずれかで雇用されるかを問わない)25%以下
防衛関連施設の建設
広告業30%以下
政府調達法に基づくインフラプロジェクトの調達(一定の条件あり)40%以下
天然資源の探査、開発および利用
公共事業の運営
教育機関(宗教団体や宣教師会により設立されたもの、外交官およびその扶養家族、その他外国一時居住者または正式な教育制度の一部を構成しない短期高度技能開発のために設立されたものを除く)
米およびとうもろこしの栽培、生産、精米、加工、取引(小売を除く)、および物々交換、購入またはその他の方法による米、とうもろこしおよびその副産物の取得(売却期間中におけるものに限る)
政府が所有または管理する法人(Government-Owned or -Controlled Corporations:GOCCs)、企業、機関または地方自治体に対する材料および商品供給に関する契約
深海商業漁船の運航
コンドミニアムユニットの所有
私有地の所有(フィリピン国籍を喪失したが、フィリピン法に基づく契約を締結する法的能力を有するフィリピン出生者を除く)
民間無線通信網

 リストB-安全保障、防衛、公衆衛生および公序良俗に対する脅威、および中小企業保護の理由により外国人所有の制限対象となる事業は下記の通りです。

事業外国資本
フィリピン国家警察(The Philippines National Police:PNP)の許可を要する品目の製造、修理、貯蔵および流通40%以下
危険薬物の製造および販売
サウナ、スチームバス、マッサージクリニックその他公衆衛生および公序良俗に脅威を及ぼすものとして法令で規制されている類似の行為(ウェルネスセンターを除く)
全ての形態のギャンブル(フィリピン娯楽賭博公社(The Philippine Amusement and Gaming Corporation:PAGCOR)との投資協定に含まれるものを除く)
資本金が200,000ドル未満の中小零細国内市場企業
払込資本金が 10 万ドル相当未満の中小零細国内市場企業で下記いずれかに該当するもの
(i)DOSTが定める先端技術に関連している
(ii)共和国法第11337号革新的新興企業法に基づき主管庁であるDTI、情報通信技術省(The Department of Information and Communications Technology:DICT)または DOST から新興企業または新興企業を支援するものとして承認されている
(iii)直接雇用従業員の過半数がフィリピン人であり、かつ、フィリピン人従業員の数が 15 人以上である

 外国投資家の関心がこれらの列挙された分野以外にある場合は、100%の外国人所有が認められます。

 2024年12月のDTIの報告書によると、フィリピンは世界的な経済変化の中で投資承認の堅調な伸びを示しています。
 この説明を裏付けるように、BOIが承認した投資は29%増加しました。
 2024年、BOIが承認した投資は1兆6,200億ペソに達し、年間目標である1兆5,000億ペソを上回りました。
 そのうちの約24%である3,833億1,000万ペソが外国投資で、スイス、オランダ、日本で146億7,000万ペソを占めます。

フィリピン経済の将来見通し(フィリピン経済の概況)

 2024年現在、フィリピンの経済見通しは、GDP成長率、インフレ率および外国直接投資などいくつかの要因から楽観的に見ることができます。
 フィリピンのGDP成長率は、旺盛な国内消費と投資により引き続き堅調です。
 これは、サプライチェーンの問題が緩和され、世界の商品価格が安定するにつれて、インフレ率にも影響を与えています。
 フィリピン政府は、より多くの投資家を引き付け、雇用創出と経済回復に貢献すべく外国直接投資改革も推進しています。

指標2023年2024年1Q予測2Q予測3Q予測4Q予測2025年予測
GDP成長率5.60%5.80%6.10%6.30%6.00%6.30%6.00%
CPI上昇率6.00%3.50%2.50%2.80%2.80%3.00%3.00%
政策金利6.50%5.75%5.50%5.25%5.00%5.00%5.00%
外国為替
対米ドル
55.379ペソ57.845ペソ59.000ペソ58.250ペソ59.250ペソ58.900ペソ58.900ペソ
株価指数
(PSEi)
6,4506,5287,3507,8507,8507,1007,100
人口
2024年
1億1,900万人
不完全雇用率
2024年
11.90%
GDP成長率
2024年第4四半期
5.30%
GDP成長率
サービス
2024年第4四半期
6.70%
インフレ率
2024年
5.80%
平均年齢
2024年
25.70歳
完全失業率
2024年
3.10%
GDP成長率
2023年
5.60%
GDP成長率
工業
2024年
4.50%
政策金利
2024年12月
5.75%
識字率
2024年
93.10%
労働参加率
2024年12月
65.10%
1人当たりGDP
2024年第4四半期
3,804.90ドル
GDP成長率
農業
2024年第4四半期
-1.60%
外国為替
対米ドル
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Mildred R. Ramos

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PDF:【フィリピン】ビジネス・経済・会計・税務・金融・労務ニュース

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