移転価格課税と相互協議

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移転価格課税と相互協議

 我が国で移転価格課税が課されると同一の所得が日本および国外関連者の所在地国の両方で課税されるという国際的二重課税が生じます。このような事態を解消するためには、(1)我が国の課税処分を取り消してもらう国内争訟手続きと(2)租税条約の規定にもとづき、日本および国外関連者の所在地国の税務当局に二重課税を排除するために協議をしてもらう相互協議があります。

 以下、 国内争訟手続きおよび相互協議の概要と両者の関係、相互協議が合意に達した場合の対応的調整について解説します。

目次

「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の「再生型私的整理手続」について解説

国内争訟手続き

 国内争訟手続きは、国税通則法に規定する再調査の請求と審査請求と行政事件訴訟法にもとづいてなされる処分取消取引請求訴訟があります。

 税務署長、国税局長又は税関長がした処分に不服がある場合には、処分をした税務署長、国税局長又は税関長に対する再調査の請求(通法75①一イ)、国税不服審判所長に対する審査請求(通法75①一ロ)をすることができます(通法75①一ロ)。すなわち、再調査の請求を経て審査請求をすることも、再調査の請求をせずに審査請求をすることもできます。

 不服申立て(再調査の請求後にする審査請求を除きます。)は、処分があつたことを知った日の翌日から起算して三月を経過したときは、することができません(通法77①)。再調査の請求をした者が当該決定を経た後の処分になお不服がある場合にする審査請求は、再調査決定書の謄本の送達があつた日の翌日から起算して一月を経過したときは、することができません(通法77②)。

 再調査の請求を経て審査請求をすべきか、再調査の請求を経ずに審査請求をすべきか決める必要がありますが、再調査の請求に対する決定は、主文及び理由を記載し、再調査審理庁が記名押印した再調査決定書によって行わなければならないことになっているため(通法84⑦)、課税庁による課税の根拠をより詳しく知ることができるとも言われています。

 審査請求の裁決の内容に納得できない場合には、裁決があつたことを知った日から六箇月以内に処分取消訴訟を提起することができます(行訴法14条①)。なお、処分取消訴訟は、審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起できません(通法115①)。

出典:国税不服審判所HP『制度の概要図

相互協議

 相互協議は、租税条約に基づいて行われますので、租税条約がない国との間では相互協議はできません。条約の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることになると認める者は、当該事案について相互協議を申立てることができます。例えば日米租税条約25条第1項には、以下のように規定されています。

 「一方の又は双方の締約国の措置によりこの条約の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることになると認める者は、当該事案について、当該一方の又は双方の締約国の法令に定める救済手段とは別に、自己が居住者である締約国の権限のある当局に対して又は当該事案が前条1の規定の適用に関するものである場合には自己が国民である締約国の権限のある当局に対して、申立てをすることができる。当該申立ては、この条約の規定に適合しない課税に係る措置の最初の通知の日から三年以内に、しなければならない。」       

 「条約の規定に適合しない課税」とは何かが問題になります。租税条約には特殊関連企業条項(例えば日米租税条約)において独立企業の原則が定められており、特殊関連企業間で独立企業間の条件とは異なる条件があることにより、一方の企業から他方の企業に所得の移転がなされた場合に、当該一方の企業において移転した所得を算入して課税できるもととしています。独立企業の原則にもとづいて取引が行われればそのような課税がおこなわれません。移転価格課税においては、企業が独立企業間価格すなわち独立企業の原則に基づいて取引を行っているとの前提に立てば、これに反する課税処分は、特殊関連企業条項に定める独立企業の原則に反し、「条約の規定に適合しない課税」となります。

 移転価格課税(措法66の4①)ではなく国外関連者寄附金(措法66の4③)で課税処分された場合は「条約の規定に適合しない課税」に該当するか問題になることがあります。寄附金は、「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」であり、独立企業の原則に反しており、一般的には「条約の規定に適合しない課税」には該当しないと思われます(注1)。しかし、実質的には移転価格課税の問題を国外関連者寄附金の規定で課税処分している場合には、「条約の規定に適合しない課税」に該当するという見解もあります。したがって、相互協議の申立てをする前の相互協議室との事前相談(注2)で確認することが望ましいと考えられます。

 また、相互協議の申立の期限が租税条約に規定されているため、租税条約の相互協議条項を確認しておくことが必要です。

 1.例えば、株式会社商船三井の2013年2月5日プレスリリースには、寄附金課税部分は相互協議の対象にならなかったという記述があります。

 https://www.mol.co.jp/pr/2013/13008.html

 2. 国税庁HP 相互協議手続に関するガイダンス(Q&A) 1.相互協議の概要

国内争訟手続きと相互協議

 国内争訟手続きも相互協議の申立ても期間制限があるため、一方の手続きを終了してから他方の手続きを行おうとすると手続き可能な期間を徒過して申立てができなくなる可能性があります。したがって、一般的には、両方の手続きを同時に開始しますが、両手続きを調整する法的な制度はありません。そこで、実務的には、国内不服申立てを行う際に、相互協議手続きを先行したい旨を述べ、相互協議手続きを国内不服申立て手続きに先行させることが一般的に行われているようです。

相互協議と対応的調整

 国税庁と外国税務当局の間で相互協議が行われ、合意に達した場合には、両国は、その合意を実行することが求められます。例えば、日米租税条約9条第1項は、以下のように規定しています。

 「一方の締約国において租税を課された当該一方の締約国の企業の利得を他方の締約国が当該他方の締約国の企業の利得に算入して租税を課する場合において、当該一方の締約国が、その算入された利得が、双方の企業の間に設けられた条件が独立の企業の間に設けられたであろう条件であったとしたならば当該他方の締約国の企業の利得となったとみられる利得であることにつき当該他方の締約国との間で合意するときは、当該一方の締約国は、当該利得に対して当該一方の締約国において課された租税の額について適当な調整を行う。この調整に当たっては、この条約の他の規定に妥当な考慮を払う。」

 例えば、内国法人がA国の国外関連者に製品を80で販売していたところ、我が国において独立企業間価格は、100であるとして更正処分をされ、A国との租税条約の規定にもとづき相互協議を申立てたところ独立企業間価格は、90であると合意したとします。この場合、我が国税務当局は、当初の更正処分20を10だけ減額再更正し(通法26条)、結果的に10の増額になります。A国税務当局は、我が国税務当局の更正処分に対応した10の減額調整を行います。この相手国の減額調整を対応的調整といいます。

利益配分

当初課税処分後相互協議による調整調整後
内国法人3050△1040
A国法人4040△1030
合計7090△2070

 我が国とA国が逆で、A国の国外関連者が内国法人に製品を80で販売していたところ、A国において独立企業間価格は、100であるとして課税処分をされ、A国との租税条約の規定にもとづき相互協議を申立てたところ独立企業間価格は、90であると合意したとします。A国では、課税処分を10だけ減額し、対応的調整により10だけ減額調整する必要がありますが、当初の更正処分がなされていないため、納税者から更正の請求をします。相互協議に時間を要し、合意成立までに5年以上かかり更正の請求の期間制限(通法23条①)を経過する場合がありますが、後発的事由による更正の請求(通則法23条2項)をすることが可能です。後発的事由には「その他当該国税の法定申告期限後に生じた前二号に類する政令で定めるやむを得ない理由」(同項3号)があり、政令で定めるやむを得ない理由には、「わが国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約に規定する権限のある当局間の協議により、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等に関し、その内容と異なる内容の合意が行われたこと」(通法令6条①四)が含まれています。

相互協議の状況

 毎年の相互協議の状況が国税庁より公表されており(注3)、令和6年事務年度においては、移転価格課税・事前確認による相互協議の増加傾向がうかがえ、発生件数が処理件数を上回ったため、令和6事務年度末の繰越件数は増加しています。

相互協議は申立てれば、必ず合意に至るものではなく、特に新興国との間の相互協議は、相手国当局が限定的な機能リスクの会社をフルフレッジの機能リスクの会社と遜色ないと評価する、自国の減額を受け入れない等の理由で合意不成立に終わる場合もあります。

 また、OECD非加盟国・地域との相互協議事案について、令和6事務年度の処理事案1件当たりに要した平均処理期間は、49.0 か月(事前確認51.8か月、移転価格課税その他36.3か月)と協議が長期にわたることにも留意することが必要です。

出典: 令和6事務年度の「相互協議の状況」について(令和7年11月)(PDF/395KB)

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「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の「再生型私的整理手続」について解説

なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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執筆者

  • 石塚 洋一

    東京共同会計事務所 事業開発企画室 シニアアドバイザー
    公認会計士
    税理士

    監査法人にて監査業務を経験後、税理士法人にて税理士法人にて税務コンプライアンス、税務アドバイザリー業務に従事。特に国際税務の分野で、多国籍企業の税務ガバナンス、税務調査対応と税務争訟、移転価格における調査対応・相互協議、事前確認、国際取引についての税務アドバイス業務を専門とする。また、大学発スタートアップ企業等の監査役、会計専門職大学の租税法担当教員の経験を有する。

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