経済成長が続くベトナムでは2025年の経済成長率が8%超を記録し、トランプ関税の逆風に負けず力強い成長を示しています。このような中、ビジネスチャンスを狙ってベトナムへ進出をした企業、あるいは進出を予定している企業も少なくありません。
一方で、海外へのビジネス進出の際には、自社の駐在員事務所や出張者の活動が現地税務当局に恒久的施設(Permanent Establishment、
以下PE)とみなされることによる、追徴課税などのリスクを十分に考慮する必要があります。
本稿では、ベトナムでビジネスを展開する日系企業が押さえておくべき、ベトナム法人税法と日越租税条約の双方からPEの定義・類型、判定基準に加え、PEと判定された場合の課税関係等について詳しく解説いたします。
目次
PEとは、一般的に「外国法人が他国において事業の全部または一部を行う場所」を言います。
ベトナムを例にすると、日本企業が現地に支店や子会社を設けていない場合でも、現地で一定期間を超える建設工事を行ったり、あるいは日本企業の指示等に基づいて外国企業の名義で契約を締結する権限を持っている代理人を配置する等した場合にPEがあるものと認定される可能性があります。
本章では、ベトナムにおけるPE認定の重要性と、認定された場合の税務リスクについて解説いたします。
ベトナムにおいてPE認定が重要となるのは、PEの有無により課税範囲が異なるためです。ベトナム国内法によれば、外国法人はPEを有すると判定された場合、そのPEに帰属するベトナム国内外所得とその他のベトナム国内源泉所得がベトナムにおいて課税対象となります。一方でPEと認定されない場合には、ベトナム国内源泉所得が課税対象となります。
実務では「PEか否か」の判断は、事業を実質的に行う場所、取引の本質的な内容、その他関連するすべての要素を総合的に勘案して判断することとなります。つまり、ケースバイケースで課税関係が決まるのです。
ベトナムで事業活動を実施することを検討している企業は、自らの進出形態、実施する事業活動がPEに該当するか否かを自らで判断し、課税関係を整理し、現地税務当局に説明ができるよう準備をしておくことが重要です。
それでは、ベトナムにおけるPE認定基準にはどのようなものがあるのでしょうか。
本章では、まずベトナム国内法の観点から「PEにはどういったものがあるのか」という類型を示し、PEと判定される基準を提示しています。更に二重課税回避のために設けられた日越租税条約についても触れ、ベトナム国内法とどのような関係にあるのか詳しく解説いたします。
ベトナム国内法でPEは、ベトナム法人税法 第67/2025/QH15号(2025年6月14日付)で規定されており、その第2条第3項においてPEは「その施設を通じて外国法人がベトナムにおいて生産・事業活動の一部または全部を行う生産・事業拠点をいう」と定義しています。政令第320/2025/NĐ-CP号(2025年12月15日付)にてこのPEに関する規定がご確認いただけます。
具体的な類型の概要は下表をご参照ください。
PEの判定は、形式的な文言ではなく、事業・取引の本質の整理が重要なポイントになります。
| PE類型 | 内容 | 具体例 |
| ① 支店等のPE | ベトナムにおける支店、事業管理事務所、工場、油田、ガス田、鉱山、その他の天然資源の採掘場所、電子商取引プラットフォーム、デジタルプラットフォームでありそれらのプラットフォームを経由して外国企業がベトナムで商品やサービスを提供する場所等 | – 外国銀行の現地支店 – Shopee, Lazada等のデジ タルプラットフォームを経 由でベトナムにおいて商品 販売している外国法人 |
| ② 建設PE | 建設現場、建設・据付・組立工事 | – 6か月超の工事 – 6か月超 |
| ③ サービスPE | (外国法人の)従業員またはその他の組織・個人を通じて行われるコンサルティング・サービスを含む、ベトナムにおけるサービス提供 | – 連続する12か月の間に6か月超の技術者の派遣 |
| ④ 代理人PE | 外国法人のベトナムにおける代理人。ベトナムにおける代表者であって、当該外国法人の名義で契約を締結する権限を有する者、または、当該外国法人の名義で契約を締結する権限を有しないが、ベトナムにおいて物品の引き渡しまたはサービスの提供を恒常的に行っている代表者 | – 現地代理店 |
実際の生産・事業拠点だけでなく、サービスPEのように「人」もPEになりうるという点に注意が必要です。
それでは、次に日越租税条約との関係をみてみましょう。
租税条約とは、二重課税の回避を目的の一つとする二国間で取り交わされる条約で、日本とベトナムの租税条約は1995年に署名、同年に発効しています。
BEPS防止措置実施条約(MLI)については、ベトナムが2022年に署名し、財務省公表の整理では、ベトナムにおける条約の適用開始時期は、源泉徴収される租税については
2024年1月1日以後に生ずる課税事象、その他の全ての租税については2025年1月1日以後に開始する課税年度であると示されています。
PEに関しては、租税条約 第5条で「事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部または一部を行っている場所をいう」と定義されています。
更にPEの類型についても明記されており、支店PE、建設PE、サービスPE、代理人PEなど、全体的にほぼ上記で紹介したベトナム国内法と同様の類型となっています。
サービスPEに関して、国内法では期間について法律と政令のレベルで明確な期間が規定されていませんが、租税条約に基づくと、12か月のうち6か月超と言及されています。
ベトナム国内法と日越租税条約が異なる場合は、原則として租税条約が優先されることとなりますが、条約で規定されていない項目については国内法が適用されますので、PEの判定の際にベトナム国内法および日越租税条約の両方の確認が必要です。
また、日越租税条約には、PEとみなされない例外規定が明記されています。PE判定の際に参考にしてみてください。
| 例外規定(例) | 日越間条約内の該当条文 |
| 企業に属する物品または商品の保管 または展示のためにのみ施設を使用する | BEPS防止措置実施条 約第十三条2(a)(ⅰ) |
| 企業に属する物品または商品の在庫を保管または展示のためにのみ保有する | 同 (a)(ⅱ) |
| 企業に属する物品または商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有する | 同 (a)(ⅲ) |
| 企業のために物品もしくは商品を購入し または情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有する | 同 (a)(ⅳ) |
| 企業のために上記に規定する活動以外の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有する | 同 (b) |
| 上記の活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有する | 同(c) |
本章ではPE判定の次のステップとして、PEに該当する場合と該当しない場合の課税関係を整理します。
どのような税目について、どの程度の税務コストが発生するのかを可視化すると同時に、軽減可能な場合に必要な手続きについても解説いたします。
ここでは「PEの場合」と「PEではない場合」それぞれについて、この記事の時点での現行のベトナム国内法および日越租税条約に基づき、主要な税目(法人税・付加価値税・個人所得税)に関わる課税関係を比較したいと思います。
| PEの場合 | PEではない場合 | |
| 法人税 | 【課税あり】 ベトナム国内法に基づき、下記の所得に課税されます。 1 PEに帰属するベトナム国内外所得 2 その他のベトナム国内源泉所得 なお、ベトナムで課税された所得が日本でも課税された場合は、日本において外国税額控除を適用できる可能性があります。 | 【免除の可能性】 ベトナム国内法に基づき、ベトナム国内源泉所得について課税されます。 ただし、日越租税条約の条件を満たす場合、減免措置が適用できる可能性があります。 なお、ベトナムで課税された所得が日本でも課税された場合は、日本において外国税額控除を適用できる可能性があります。 |
| 付加価値税 | 【課税あり】 PEの有無にかかわらず、ベトナム国内法に基づき、課税対象となります。 なお、日越租税条約の適用対象外となります。 | 【課税あり】 同左 |
| 個人所得税(※) | 【課税あり】 ベトナム国内法に基づき、課税対象となります。 また、日越租税条約に定める短期滞在者免税措置の条件(第15条2(c))を満たさないため、ベトナムで個人所得税が課されることとなります。 | 【免除の可能性】 ベトナム国内法に基づき、課税対象となります。 但し、日越租税条約に定める短期滞在者免税措置の条件を満たす場合、日本でのみ個人所得税が課されベトナムでは免除されます。 |
(※)個人所得税の対象は給与所得者である出張者(ベトナム非居住者)を想定しています。
日越租税条約に減免措置が規定されます。ただし、この軽減措置は自動的に適用されることはなく、所定の手続きが必要です。現行では税務管理法No.38/2019/QH14の条項に関わるガイダンスを提供する2021年9月29日付の通達No. 80/2021/TT-BTCの第62条の規定で手続きをご確認いただけます。
なお、改正税務管理法No.108/2025/QH15が公布され、2026年7月1日以降(一部の条項を除き)発効されますので、改正法のガイダンスを提供する、今後公布される政令と通達により定められる手続きについて確認が必要です。
このように、PEの判断をする際に事実関係を把握したうえで、ベトナム国内法と日越租税条約の双方を確認し、税務当局の最新の見解等も踏まえて検討することを推奨します。PEと認定されるか/されないかは課税関係、減免措置の有無等に影響を与えますので、PE判定が非常に重要だと考えられます。
東京共同グループの一員である株式会社東京共同ホールディングスでは、ベトナム出身の税理士が現地の様々な専門家と提携しながら適切かつ効果的なアドバイザリーサービスを提供しています。ベトナム進出をお考えの企業様や既に進出しておりお困り事のある企業様、ぜひお気軽に幣所までご相談ください。
なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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