移転価格税制とは
~概要や仕組み、知っておきたいポイントを解説~

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移転価格税制とは  <br>~概要や仕組み、知っておきたいポイントを解説~

東京共同会計事務所/ TKグローバルトランザクションアドバイザリー株式会社

急速に進む経済のグローバル化を背景に、「国外関連者※」との取引を拡大する多国籍企業が増えています。この経済機運の中で、多国籍企業グループ内取引による利益が不当に海外移転することを防ぐために導入されたのが、「移転価格税制」です。我が国ばかりでなく、アメリカやヨーロッパ主要国、中国を含むアジア諸国などでも、同税制の適用が強化されています。そこで本稿では、移転価格税制の仕組みやポイントなどについて解説します。
(※国内法人との間に、50%以上の株式等の保有関係や実質的支配関係(役員関係、取引依存関係、資金関係等)といった特殊な関係がある外国法人をいいます。また、株式等の保有関係と実質的支配関係とが連鎖している関係にある外国法人も国外関連者となります。例えば、法人 A と株式等の保有関係がある国外関連者B が、他の外国法人 C との間に実質的支配関係がある場合、C は A の国外関連者となります。)

移転価格税制の概要について

 日本の法人が国外関連者との間での取引(以下、「国外関連取引」)において、取引価格を第三者間における取引価格(※)と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に容易に移転することが可能となります。移転価格税制は、このような国外関連者との間で、取引を通じた所得の海外移転を防止するために制定されました。国外関連者との取引が、独立企業間価格で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度です。
現在、多国籍企業グループに関する移転価格及びそれに関連する税務上の取扱いについては、経済協力開発機構(以下、「OECD」)の租税委員会が中心となって「OECD移転価格ガイドライン」として取り纏めており、当該ガイドラインは、納税者と税務当局との双方にとって、移転価格税制に関する国際的な指針として機能しています(※出典:国税庁「OECD租税委員会による「OECD移転価格ガイドライン2022年版」の公表について(令和4年1月)」)。

(※移転価格税制上、国外関連取引は独立企業間価格で行われていることが求められます。独立企業間価格とは、独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に、国外関連取引の対価の額とされるべき額を算定するための最も適切な方法により算定した金額をいいます。)

移転価格税制の仕組みについて

 移転価格税制の適用対象は国外関連取引です。国外関連取引には、日本の法人と国外関連者との間で発生する様々な取引が含まれ、代表的なものとして、日本親会社と国外関連者との間での原材料や完成品の取引(一般的に「棚卸資産取引」と呼称されます。)が挙げられます。日本親会社が国外関連者に対して技術指導やマーケティングを支援するなどの「役務提供取引」も、国外関連取引の1つです。


 日本親会社の製造ノウハウを国外関連者に使用させ、その対価としてロイヤルティを受け取る「無形資産取引」、国外関連者に対し金銭を貸し付け、その対価として利息を受け取る「金銭貸借取引」(いわゆる親子ローン)も、国外関連取引に該当します。


 これらは、前出の「独立企業間価格」で対価が設定される必要があるため、税務調査において国外関連取引の価格設定が独立企業間価格と乖離しており所得の国外移転が生じていると判断された場合、調査官は当該取引が「独立企業間価格」で行われたものとして、課税所得を再計算します。

日本企業に求められる移転価格税制対応

 OECDによる勧告を踏まえ、国税庁は平成28年度の税制改正に「多国籍企業情報の報告制度」を盛り込みました。これにより、多国籍企業グループ(グループの構成会社等の所在国が2以上あるもの)のうち、前事業年度の連結総収入金額が1,000億円以上であるグループに関しては、「最終親会社等届出事項」、「国別報告事項(CbCレポート)」及び「事業概況報告事項(マスターファイル)」を、国税電子申告・納税システムで、国税当局に提供しなければならないことになりました(※出典:国税庁「多国籍企業情報の報告」)。
 

 「最終親会社等届出事項」には、最終親会社に関する名称、本店又は主たる事務所の所在地、法人番号、代表者名に関する情報などを記載する必要があります。また、「国別報告事項(CbCレポート)」には、特定多国籍企業グループ(特定多国籍企業グループとは、2ヶ国以上居住地国がある多国籍企業グループのうち、直前の連結会計年度の総収入が1000億円以上ある企業グループを指します。)が拠点を持っている国ごとに、収入金額、税引前当期利益、納付税額、構成会社の名称、所在国、主たる事業内容に加え、それら記載事項の参考となる情報を記載することが求められます。そして、「事業概況報告事項(マスターファイル)」には、特定多国籍企業グループが拠点を持つ国ごとに、構成会社等の売上、収入その他の収益の重要な源泉、主要な商品等5種類のサプライチェーン概要、構成会社等の間で行われる役務の提供に関する重要な取決めの一覧表など、グループ全体の情報を記載することが求められます。

 これらの文書以外にも、国外関連取引を行った日本の法人のうち、国外関連取引の金額が以下の条件を満たす場合には、「国外関連取引が独立企業間価格で行われていることを示す書類(以下、「ローカルファイル」)」を確定申告書の提出期限までに作成し、保存する必要があります(同時文書化義務)。

  • 資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引の合計が50億円以上
  • 特許権等の無形固定資産取引、その他無形資産取引の合計が3億円以上

 ローカルファイルには、各国外関連者との取引について詳細な事実関係の説明と、移転価格分析を行った結果、当該国外関連取引が、対象年度にわたり独立企業間価格で行われたことを記載することが求められます。
 なお、上記の基準を満たさない場合(同時文書化義務が課されない日本の法人)であっても、税務調査において調査官からローカルファイル(正確には「ローカルファイルに相当する書類」)の提出を求められた場合は、60日以内の調査官が指定する日までに提出しなければなりません。提出期限や内容といった点でローカルファイルと実質的な違いはありませんので、注意が必要です。

独立企業間価格算定方法

 独立企業間価格算定方法のうち、取引の価格を直接比較する「独立価格比準法」、売上総利益率に基づき算定された価格を比較する「再販売価格基準法」及び売上原価総利益率(コストマークアップ率)に基づき算定された価格を比較する「原価基準法」の3つを総称して、「基本三法」といいます。
独立企業間価格の算定にあたり、各算定方法の適用に際して要求される比較対象として、適切な比較対象取引(※比較対象取引の意義につき、国税庁「第2款 比較対象取引」)を選定できる場合には、それぞれの長所を考慮したうえで、事案に応じた最も適切な方法を選定する必要があります。

●独立価格批准法(CUP法)
 独立企業間価格の算定方法の中で、最も直接的で信頼性が高いとされているのが、
 このCUP法です。法人と国外関連者との取引と同種の取引を、非国外関連者が
 同条件で売買した場合、その取引の対価の額、又は条件が異なる場合は対価を
 調整した額を、独立企業間価格とする方法です。

●再販売価格基準法(RP法)
 国外関連取引による売上総利益の、売上高に占める割合(売上総利益率)と、
 比較対象取引の売上総利益率とを比較する方法がRP法です。検証対象の取引が、
 独立企業間原則(海外子会社等との取引を、独立した第三者間と同等の条件で
 行うことを求めるルール)を満たしているかどうかを検証する算定方法です。

●原価基準法(CP法)
 検証対象となる関連者間取引と、比較対象取引における、売上原価に対する
 売上総利益率を比較して、検証対象取引が独立企業原則を満たしているかどうかを
 検証する算定方法が、CP法です。上記の再販売価格基準法と同様、原価基準法も
 売上総利益率を使うので、CUP法に次いで直接的な方法とされています。

●利益分割法(PS法)
 PS法とは、国外関連取引で得られた所得の合計額(合算利益)を、分割要因、
 分割ファクターなど合理的な割合で分割することにより、独立企業間価格を
 算定する方法です。合算利益の分割法により、「比較利益分割法」、
 「残余利益分割法」、「寄与度利益分割法」の3つの方法があります。

●取引単位営業利益法(TNMM)
 TNMMは、国外関連者間の取引によって得られる営業利益の水準に着目した
 移転価格算定方法です。独立企業間の取引によって生じる(であろう)営業利益
 の水準を算定し、その算定値と、検証対象企業の利益水準が同じであることに
 よって、移転価格の問題が生じていないことを確認します。

●DCF法
 DCF法とは、無形資産が将来に生み出す期待キャッシュ・フローを現在価値まで
 割引き、当該無形資産の価値を算定する方法です。収益法の適用性を評価する際、
 財務予測の正確性及び信頼性、成長率、割引率、経済的残余耐用年数、税効果など
 の条件を考慮する必要があります。

 なお、2011年度税制改正により、独立企業間価格算定方法の適用優先順位(基本三法優先)は廃止されており、「基本三法」、TNMM、PS法、2019年度税制改正により追加されたDCF法の、6つの独立企業間価格算定方法から「最も適切な方法」を事案に応じて選定し、適用する仕組みに移行しています(ベスト・メソッドルール)。
したがって、日本の法人自らが、国外関連取引の移転価格分析を行うにあたって最も適切な移転価格算定方法を上記の中から選択し、当該移転価格算定方法を適用した結果を、当該移転価格算定方法を選択した理由とともに、ローカルファイルに記載することが求められます。

※出典:国税庁「最適方法ルール下における利益分割法の適用について-理論的根拠と適用可能性-」

移転価格調査で課税を受けた場合の対応

 日本の法人が、今後数年間行う国外関連取引の価格設定について、税務当局に事前に
確認を取る「APA」という制度を利用すれば、移転価格調査・課税を回避することが
可能となります。そうでない場合、移転価格課税を受ける可能性を排除することはできません。

 移転価格課税を受けてしまった場合、日本企業の対応としては、国外関連者所在国との間で租税条約を締結しているか否かにより、取り得る手段が異なってきます。日本が国外関連者の所在国と租税条約を締結している場合、課税を受けた日本法人は、租税条約に基づく相互協議の申立てと国内法に基づく不服申立てを行うことができます。相互協議とは、納税者が租税条約の内容に適合しない課税を受けた場合において、租税条約締結国の税務当局間で解決を図るための協議手続です(※相互主義の意義につき、※出典:国税庁「1.相互協議の概要」)。

 日本の税務当局と国外関連者の所在国の税務当局が協議を行い、合意に至れば二重課税を解消できる可能性はありますが、両者は合意に向かって努力する義務はあっても、合意義務はないため、結果として二重課税の問題を解決できないケースもあります。このような場合、国内法に基づく再調査の請求、審査請求及び訴訟という救済手段を求めることも可能であり、国内法の手続きに則って課税金額の減額などを求めることになります。

 具体的には、移転価格の評価・算定を受けた納税者は、国内法で規定された不服申し立て手続きにより、税務当局が下した一次判定に異議を唱えることができます。一般的な不服申し立ての形態としては、原判決に対する再審査請求や正式な紛争解決書の提出が挙げられます。納税者が、裁定に関する合理的な根拠が確立されていないと考える場合、さらに審査を要求し、上級裁判所に修正査定を申し立てることもできます。

 その場合は、それぞれの上訴手続きに精通した適切な当事者を特定することが重要です。証人喚問や専門家の意見を参考にすることで、より詳しい情報を当事者に提供し、解決に導くことも可能です。不服申し立て手続きは、移転価格税制の下で納税者が利用できる可能性のある手段です。この手続きに関する十分な知識と理解は、有利な結果を得るための鍵になります。


 一方で、日本が国外関連者の所在国と租税条約を締結していない場合には、上記の相互協議は利用することができないため、国内法に基づく救済手段のみを検討することになります。

まとめ

 移転価格税制は、複雑かつ対応には相応の事務負担が必要なことから、豊富な経験を有する専門家の助言を得ながら進めるケースが一般的です。
東京共同会計事務所では、グローバル企業の移転価格対応に豊富な実務経験を持つ移転価格税制の専門チームが、戦略的なコンサルティングサービスを提供しています。移転価格に関する諸問題への対応が困難と感じられる場合は、東京共同会計事務所までお気軽にお問い合わせ下さい。


 なお、本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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監修者

  • 香坂 慎太郎

    東京共同会計事務所 移転価格アドバイザリーグループ
    統括
    TKグローバルトランザクションアドバイザリー株式会社
    取締役副社長

    移転価格の専門家として10年以上の経験を有し、日系多国籍企業の国際取引における様々な課題に対して幅広いアドバイザリーサービスを提供。特に、無形資産取引及びグループファイナンス取引の課題に対するソリューションの提供を得意とする。

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