事前確認制度(APA:Advance Pricing Agreement) に関する申請の流れやメリットについて解説

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事前確認制度(APA:Advance Pricing Agreement) に関する申請の流れやメリットについて解説

 APAとは、企業が国外関連者と取引を行う際、取引に係る移転価格に関して、その企業が採用する独立企業間価格及びその算定方法の妥当性を、将来年度の一定期間(通常3~5年)を対象として税務当局が合理性を検証し、事前に確認を行う制度です。

事前確認制度(APA:Advance Pricing Arrangement)
とは

 APAは、移転価格課税の発生を未然に防止するため、日本を含む世界各国の多国籍企業が利用している制度の1つです。企業の申出に基づき、対象となる国外関連取引に関する独立企業間価格の算定方法等について、取引が行われる前に税務当局が確認を行います。

 海外で事業展開する多国籍企業にとって、移転価格調査は税務当局主導の受動的な移転価格の検証であるのに対して、APAでは、納税者である企業側から能動的に移転価格及びその設定方針等の妥当性を立証し、当局に確認を求めることができます。このため、移転価格調査の結果による更正リスク等の企業経営上の不確実性を排除し、予見可能性を確保することが可能となります。

 APAを利用する最大のメリットには以下のようなものが挙げられます(二国間APAの場合)。

  • 移転価格に関する潜在的な問題を、両国の税務当局と友好的かつ協力的に解決できます。
  • 二重課税や移転価格の更正によるペナルティーのリスクを、将来にわたり回避できます。
  • 税務調査等における敵対的な環境下よりも、効果的かつ効率的に移転価格の問題を解決できます。
  • 業が望む移転価格算定方法での申請が可能であり、申請内容に基づき審査が行われます。
  • 国によっては、APAの結果を過年度にも適用するロールバック(遡及適用)を交渉することができます。

APAの現状

 昨今、APAの利用件数は着実に増加しています。国税庁は、納税者の予測可能性を高め、移転価格税制の適正・円滑な執行を図る観点から、事前確認に係る相互協議を実施していますが、事前確認に関する相互協議の発生件数は令和元年で148件、令和2年が146件、そして令和3年は188件という推移状況です。(※出典:国税庁「令和3事務年度の「相互協議の状況」について」

 事前確認の申請期限は確認対象期間となる最初の事業年度開始の日までとなっており、また、正式な申請の前に、税務当局の担当者に事前相談を申し入れることが通例となっています。

 国税庁の相互協議手続に関するガイダンス(Q&A)によると、二国間APAの場合は申請から合意に至るまでに要する期間は概ね2年程度とされています。(※出典:国税庁「1.相互協議の概要」

APAの種類

APAには、取引を行う双方の税務当局から確認を取る「二国間(バイラテラル)APA」と、国内のみで確認を取る「国内(ユニラテラル)APA」があります。それぞれの特徴は以下のとおりです。

  • 二国間(バイラテラル)APA
    バイラテラルAPA(Bilateral APA : BAPA)とは、両国の企業がそれぞれの国でAPAを申請し、両国の権限ある当局が申請内容について相互協議を経て合意するAPAのことを指します。合意を取ることができれば、国際的二重課税リスクを原則的に排除することが可能となります。
  • 国内(ユニラテラル)APA
    ユニラテラルAPA(Unilateral APA : UAPA)はバイラテラルAPAに対し、一国内の税務当局のみに事前確認を取る制度です。相互協議の必要な二国間APAと比較して、ある程度早期に合意が得られ、時間もコストも軽減できる傾向にあるというメリットがあります。一方で、申請を行っていない取引相手国の税務当局から、更正を受けるリスクは残ります。

APAのメリット

 APAの最大のメリットは、確認対象期間中は確認内容に従って取引及び申告を行っている限り、移転価格の更正は行われないことにあります。

 APAは、企業と税務当局との間で予想される移転価格に関する問題を前もって解決し、長期間にわたり多大なコスト(アドバイザーへの費用及び事務負担等)がかかる移転価格調査や、多額の追徴課税が発生し得る移転価格更正のリスクを、確実に回避する唯一の手段とも言えます。

APA取得までの流れ

 APA取得までの流れについては、ユニラテラルAPAの場合は4段階、バイラテラルAPAの場合は5段階のステップに分けることができます。

 納税者である企業の申出からAPA取得までの流れを、ステップごとに見てみましょう。通常、APA申請前の段階においてAPA申請のメリットや申請内容の検討を実施しますが、ここでの説明は省略します。なお、以下に示すのはバイラテラルAPAの場合で、
ユニラテラルAPAの場合、(Step.4)の「相互協議」は発生しません。

Step.1 国税庁及び所轄国税局への事前相談

APAを正式に申請する前の段階で、通常は税務当局との非公式折衝である事前相談を各申請国で実施、そしてAPAの取得可能性や分析の方向性等について税務当局の意見を聴取します。

事前相談窓口は各国税局に設置されており、企業は申請をする際に必要となる資料をスムーズに作成することができるようになります。事前相談を経て申請することで、税務当局においての審査も迅速になるケースがあります。

Step.2 APAの申請

申請対象となる期間(将来年度)の最初の事業年度の開始日までに、「独立企業間価格の算定方法等の確認に関する申出書」と、その他の必要書類を提出します。

当該申出書の主な記載内容は、「国外関連者」「確認対象事業年度」「確認対象取引」「独立企業間価格の算定方法」の4つです。

Step.3 審査

APAを正式に申請した後は、各申請国の国内において税務当局から申請書等の審査が行われます。審査過程において、追加資料の提出を求められることもあります。

Step.4 相互協議

国税庁は審査結果を受けて、相手国の税務当局と相互協議を行います。相互協議においては、それぞれの税務当局が自国の意向に沿い、事前確認の合意案を提示することによって協議します。

両国の税務当局が合意に至った場合、事実上バイラテラルAPAが成立します。

Step.5 合意(APAの取得)

相互協議において申出内容と同じ内容の合意に至れば、局担当者は納税者(申出をした企業)あてに確認通知を送付します。

当該確認通知をもってAPAの取得となりますが、相互協議が合意に至った場合であっても、内容が納税者からの申出内容と同様とは限りません。一旦、合意案は納税者に提示され、同意するかどうか確認が行われます。納税者の申出と合意案の内容が異なる場合、合意案に沿った修正申出書を提出し、局担当者は納税者あてに確認通知を送付します。

まとめ

 APAの概要やAPAを利用するメリットなどについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか。移転価格課税リスクを排除する手段として極めて有用ではありますが、特にバイラテラルAPAを申請する場合、納税者自身で全てを完結しようとすると多大な負担がかかります。そのため、専門家のサポートを得ながら進めるのも一案です。

 東京共同会計事務所では、グローバル企業の移転価格対応に豊富な実務経験を持つ移転価格税制の専門チームが、戦略的なコンサルティングサービスを提供しています。移転価格に関する諸問題への対応が困難と感じられる場合は、東京共同会計事務所までお気軽にお問い合わせ下さい。

 なお、本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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監修者

  • 香坂 慎太郎

    東京共同会計事務所 移転価格アドバイザリーグループ
    統括
    TKグローバルトランザクションアドバイザリー株式会社
    取締役副社長

    移転価格の専門家として10年以上の経験を有し、日系多国籍企業の国際取引における様々な課題に対して幅広いアドバイザリーサービスを提供。特に、無形資産取引及びグループファイナンス取引の課題に対するソリューションの提供を得意とする。

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