【第2回】税務顧問の契約書はなぜ重要なのか?
会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

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【第2回】税務顧問の契約書はなぜ重要なのか?<br>会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

 東京共同会計事務所の窪澤と申します。このコラムでは、複数回に渡って、税務業務に携わる税理士や公認会計士の皆さまが知っておきたい税理士賠償責任(以下「税賠」といいます。)に関するポイントをお届けしてまいります。

※本コラムは2019年掲載の記事となります。最新の情報は専門家へお問い合わせの上ご確認いただけますと幸いです。

前回のまとめ

 前回は、クライアントとの間で締結する顧問契約書の「業務内容」は、なるべく具体的に記載しましょう、というお話をいたしました。そして、ご自身の事務所等が、クライアントに提供している標準的な作業内容をピックアップし、それを「業務内容」として文章化した例がこちらでした。

「甲(クライアント)が作成した合計残高試算表等を基とした法人税/地方法人税/法人住民税/法人事業税申告書の作成及び所轄官庁に対する申告書の提出(電子申告の方法による。)」

記帳業務はクライアント側の業務ですよ、ということの宣言、でしたね。

決算書の内容がすべてクライアント責任の場合なら

 上場会社は、45日以内に決算発表を行う必要がありますが、一方で、30日以内の早期開示が推奨されています。近年、早期開示の影響なのか、連結子会社の数の増加等によるのか、上場会社やその子会社等がクライアントの場合、従来に比べ、決算内容の確認を求められるタイミングが前倒しされているのが実感されます。昔はGWの頃がピークでしたが、今では4月上旬が最も忙しい、という税理士の先生もいらっしゃることでしょう。

 クライアントが、社内で決算書を確定させており、税理士側は申告書の作成のみを受任するケースの場合には、上記を「甲(クライアント)が作成した財務諸表等を基とした」と変更しましょう。
この場合は、修正仕訳・決算仕訳の入力を含む決算確定の作業まですべてクライアントの責任となりますので、もし、財務諸表に問題があったことで税理士が投資家から提訴されたとしても、税理士がその財務諸表の誤りに気付ける明確な証憑等を受領していなかった等の場合には、税理士の責任は一定程度軽減できると思います(そのクライアントとの契約書が証拠になります!)。

 逆に、何から何まで先生にお任せ、というクライアントとの契約書においては、特段その文言にこだわる必要はありません。「業務内容」のカスタマイズは、その内容を限定する場合に効果が発揮されることになります。

税理士は、すべての証憑類の確認をする必要があるのか?

もう1つ、クライアントによってスタンスが異なるのが、証憑類の確認についてです。
新任の経理担当者が自社にて記帳をしているものの、まだ業務に慣れずに仕訳を間違える場合もあるでしょう。このように、経理担当者が不慣れな場合、顧問税理士としては、はじめは証憑類を1件1件確認しながらポイントを教えてあげたほうが親切かもしれません。

 このような場合は、「※なお、当初契約締結日より●年●月までは、記帳内容及び証憑類の確認も含む。」との一文を入れておくと、事務所のきめ細かな対応をアピールできます。ただ、この内容は、裏を返すと、「●年●月を過ぎたら、このサービスはしませんよ。自社で責任を持ってくださいね。」ということのアピールでもあります。

 気を付ける必要があるのは、契約書にこのような記載を入れていても、交際費や修繕費等、税務上問題となりがちな項目のチェックを、税理士が全て行う必要がない、というわけではないことです。このような項目については、チェックリストや質問事項等を作成しクライアントに回答を求め、適正に税務処理をする必要があることは言うまでもありません。

軽減税率導入で税賠も増加?

この秋、消費税の増税と軽減税率の導入が行われることが予定されています。軽減税率の対象となるのは主に食料品ですが、会議費や交際費等の勘定科目を想定すると、売上も経費も標準税率10%のみ、という会社はほとんどないのではないかと思われます。

 税理士としては、申告書の作成にあたって、当然に注意すべきポイント、が残念ながらまた更に1つプラスになるわけですが、大規模なクライアントであれば、会議費や交際費の伝票だけでもかなりの数に及ぶのではないでしょうか。その会議1件1件について、テイクアウトしたのか、その場で食べたのかを確認することは、税理士の作業としては現実的ではありません。

 軽減税率導入に伴う混乱や、クライアントあるいは税理士によるチェックミスがどの程度起きうるのかは、現在、全く想像がつきませんが、弊職としては、当該混乱に伴うトラブルを見込んで、
「課税仕入れに係る税区分の内容については、原則として、甲(クライアント)の判断によるものとする。」
という文言を、契約書に入れたほうがよいのではないかと考えています(この文言ですべての損害が防げるわけではありませんが)。

 

この文言の意図としては、消費税の税率の仕訳ミスについては、税理士は一切責任を負いません、とクライアントを突き放すためのものではなく、あくまでも、税理士としてのフォローは行うものの、微細にわたるチェックまでは時間的にも難しいので理解してくださいね、とクライアントに自覚を促すためのものです。

次回もまた、契約書についての解説を続けたいと思います。

【今回のポイント】

・自社で決算書を作るクライアントとの契約の際は、「業務内容」をカスタマイズする
・証憑類の確認をなるべく行わなくて済むような文言を盛り込む
・軽減税率導入のトラブルに巻き込まれない契約書を

 なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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執筆者

  • 窪澤 朋子

    東京共同会計事務所 コンサルティング部 
    マネージャー 
    株式会社東京共同リスクマネジメントサービス

    税務コンプライアンス業務や事業承継コンサルティングを対応しながら、前職時代に税賠に関する訴訟や交渉案件に携わった経験から、税賠予防のコンサルティングにも従事。リスク管理の視点から幅広い提案を行っている。

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