事業再生とは?
概要や手法、成功させるポイントについて解説

  • 企業再生・事業再生
事業再生とは?<br>概要や手法、成功させるポイントについて解説

 何らかの事情で経営状態が悪化し、業績回復が困難な状況に陥った企業の、経営建て直しを図ることを「事業再生」と呼びます。
事業再生の基本的な知識を身につけておけば、万が一の事態が発生した際に役立つはずです。
そこで本稿では、事業再生の基礎知識や再生の進め方などについて解説します。

そもそも「事業再生」とは何か

 「事業再生」とは、経営が危機的状況にある企業に対して、経営を建て直すための抜本対策を講じることです。複数の再生手法がありますが、いずれも倒産を防ぐために事業内容などを根幹部分から見直し、企業あるいは事業内容を再構築することが事業再生の目的です。

 2003年に深刻な債務超過で破綻したものの、化粧品事業の分離・独立などによって事業の再生は果たしたカネボウ、2010年に経営破綻した後、徹底的な組織改革などでV字回復を実現した日本航空の事例などが、ニュースなどで大きく取り上げられました。

 事業再生と似た言葉で、「企業再生」があります。同じ意味の言葉として使われることの方が多いようですが、あえて厳密に区分すると

<企業再生>

企業を建て直すことが主眼。そのため、主要業務の1つであっても赤字事業を廃止することがある。

<事業再生>

主要事業を建て直すことが主眼。そのため、企業の形態を変更する(競合他社の経営傘下に入るなど)場合もある。

…といったところでしょう。

 事業再生を成功させる上で大きなポイントとなるのが、事業再生に着手するタイミングです。業績の悪化により資金繰りが悪化し、借入金返済に支障が出そうな状況が表面化した時、あるいは収益性の良い事業を手がけているものの、企業全体としては赤字決算が続き始めた時などが、事業再生を始めるべきタイミングと言えます。

事業再生の「条件」とは

 事業再生を進めるための、法的な「条件」や「縛り」はありません。一方で、負債がなくなれば再生可能か、再生する価値を有しているかが、大きな判断基準となります。事業再生には、金融機関をはじめ仕入れ先や納入先、従業員など、多くの人たちの協力と理解が必要です。だからこそ、法的な条件は無いにしても、存続させる価値のある事業(企業)かどうかの判断が重要なのです。

 特に民事再生の手続きを行う場合は、「存続させる価値の有無」が重視されるケースが少なくありません。粉飾決算などが常態化しているような場合、企業を存続させる理由が無いと判断されることもあります。

事業再生の手法にはどのようなものがあるか

 事業再生の手法は、「法的再生(整理)」と「私的再生(整理)」の2種類に大別されます。前者は、民事再生法や会社更生法の適用に代表される手法、後者は、仕入れ先など債権者との話し合いで進める手法です。それぞれ、以下のような手法があります。

<法的再生>

●民事再生

 主に個人事業主や中小企業が実施する手法で、裁判所の管理の下、民事再生法に
 則って行われる手続き。経営者は会社に残り、債権者をはじめ様々な利害関係者
 の同意を得ながら計画を定めます。

●会社更生

 主に上記の民事再生よりも規模の大きい企業で利用される手続きで、会社更生法に
 則って行われる手続き。裁判所が選任した更生管財人が、具体的な手続きを進めます。

●特定調停

 債権者が裁判所に申し立てることにより、調停委員会が債権者と企業とを仲介する形で
 債務の弁償方法を話し合う手法。民事再生と比較して費用を安価に抑えられます。

●破産

 破産法に基づく清算手続き。裁判所に破産を申し立て、残った財産を債権額に応じて
 債権者へ分配すると同時に、企業の法人格を取り消して法人としての権利を失効させる
 手続きが進められます。

●特別清算

 会社法に則って行われる、「株式会社」のみが利用できる清算手続き。破産手続きより
 迅速かつ安価に会社の清算が行えるほか、一般に破産の悪いイメージも伴いません。

●再生型M&A

 M&Aなどによる事業譲渡の手法で、事業再生を行うやり方。主に、次の4種類の方法が
 用いられます。

 ◇企業再生方式

  事業再生対象の法人格を維持した状態で、スポンサー企業の子会社となって
  事業再生を行う方法。

 ◇事業譲渡方式

  他の法人に経営権を譲渡し、採算がとれる事業を中心に事業再生を実施する方法。

 ◇会社分割方式

  他の法人に会社経営を移転させ、採算事業と不採算事業とを分割して再生を行う
  方法。

 ◇第二会社方式

  役員や従業員が新会社を設立し、事業存続に必要な資産と人材を引き継いだ後、
  事業譲渡方式(または会社分割方式)と清算とを併用する方法。

<私的再生>

●私的整理ガイドラインに基づく手法

 債権者と債務者の合意に基づいて、債権放棄などを実施するための規定。
 法的拘束力は無いものの、私的整理が開始すると、債権者による債権行使は
 一時的に停止されます。

●中小企業再生支援協議会

 中小企業の事業再生を支援する「中小企業再生支援協議会」が規定する内容に
 則って事業再生手続きを行う手法。

●事業再生ADR

 中立的な第三者機関であるADR(裁判外紛争解決手続き)事業者が、協力して
 行う私的再生手続き。債権者に対しては、債権放棄に関する損失計上が法律上
 認められています。また、会社側も債務免除によって発生する免除益課税に対して、
 条件によっては税制上の配慮がなされます。

事業再生のメリット・デメリットは

 前述の通り、事業再生は「法的整理」と「私的整理」の2種類に大別され、それぞれのやり方にメリットとデメリットがあります。再生後の事業の進めやすさや、取り引き先各社との信頼関係にも関わってくる問題なので、メリット・デメリットを十分に考慮した上で、いずれの手法を選択すべきか検討することが重要です。

●法的再生のメリット

 法的再生の代表的な方法として「民事再生」が挙げられます。現存する負債を法的に
 整理し、債務全体をいったん棚上げしたまま事業を継続できます。また、裁判所管轄の
 下で手続きが進行するため、不正が入りにくいという点もあります。

●法的再生のデメリット

 民事再生は、手続きが煩雑なために時間を要するほか、相応の費用もかかります。
 また、民事再生を進める場合、再生計画に賛成する一定数の債権者の同意が必要
 なので、取引先の経営状態によっては信頼を失ってしまう可能性もあります。

●私的再生のメリット

 法的手続によらずに債務整理を行うため、事業の規模や現状に応じて手続きを柔軟に
 変更することが可能です。時間及び費用も、民事再生などと比較するとかなり軽減でき
 ます。

●私的再生のデメリット

 私的整理の再生計画を成立させるためには、対象債権者全員の同意が必要となるため、
 反対する対象債権者が1人でもいた場合、再生計画案が成立しません。

事業再生の流れについて

 事業再生で必要なのがスピードです。再生を図るための資金が底をつく前に準備を
整え、行動を起こす必要があります。法的再生と私的再生とでは若干の違いがありますが、一般的な事業再生の流れは以下の通りです。

(1)現状の確認・把握

  企業経営が危機的状況に陥った際、最初に行わねばならないのが現状の確認・把握
  です。財務内容、資金繰り、銀行別の借入残高などを確認した上で、破産直前の
  状況となった原因と現状を把握することが重要です。

(2)事業再生方針の決定

  資金繰り表や財務内容を基に、どの再生方法を選択するかを検討します。いずれの
  方法が適しているかは企業が置かれている状況によって異なるので、事業再生に
  精通している専門家のアドバイスを受けることも検討しましょう。

(3)デューデリジェンスの実施

  「デューデリジェンス(Due Diligence)」とは、財務状況や事業内容などを基に、
  会社の価値とリスクを調査することを言います。自社の価値を再認識することに
  より、より具体的な事業再生計画が立案できます。同時に、債権者やスポンサー
  確保のためのプレゼン資料としても活用できます。

(4)事業計画の作成

  デューデリジェンスを基に、赤字部門の整理・廃止、遊休資産等の売却など、
  収益改善を図るための事業計画(書)を作成します。一般的に、事業計画の期間は
  3〜5年など数年単位で立案します。

(5)スポンサーや資金の確保

  事業再生には資金確保が必要不可欠です。債務免除を受けずに再生可能と判断された
  場合には、銀行などと新たな融資の交渉を行います。

  一方、自力での再生が困難な場合や、再生中に再び資金不足に陥る可能性がある場合
  には、資金力のあるスポンサーに出資してもらうことが重要です。

(6)事業再生の手続き

  再生に必要な資金が確保できたら、速やかに事業再生の手続きを開始します。
  私的再生の場合、再生計画案を債権者に確認してもらい、理解を得た上で
  再生計画に対する承認を得ます。法的再生の場合は、民事再生や会社更生など
  選択した手法に応じた手続きを行います。

事業再生を成功させるためのポイントとは 
~因果応報から目を背けない~

 企業が倒産寸前の状況に陥るのは、そこに何らかの“真因”があるからです。従って、再生後に“同じ轍を踏まない”体制を作ることが、事業再生を成功させる最大のポイントと言えます。過去の経営判断に誤りがあったとしても、そこから目を背けるのではなく、誤りを浮き彫りにすることが事業再生の第一歩になります。具体的には、以下のような取り組みが必要です。

●将来性まで考慮して残すべき事業を決める

 事業再生で重要なのは、将来的に採算性が見込める事業に経営資源を集中させること
 です。数年後の需要が期待できない事業などは、廃止を視野に入れて市場調査を行う
 必要があります。また、採算性悪化の原因が人件費である場合、適正な範囲での
 リストラも検討すべきです。

●金融機関やスポンサーなどにサポートを求める

 事業再生の過程において、金融機関やスポンサーの協力が必要不可欠なのは言うまでも
 ありません。銀行等からの融資ばかりでなく、公的な支援・補助制度を利用する方法も
 あります。金融機関、スポンサー、公的支援制度など、様々な選択肢から適切な方法を
 見極めるためには、専門家のアドバイスを受けることも重要です。

●M&Aなど複数の選択肢について専門家に相談する

 前述したように、M&Aによる事業譲渡も事業再生の有効な手段の1つです。
 事業譲渡にも複数のやり方があり、企業の状況によって適切な方法も手続き等も
 異なってきますので、専門家のアドバイスを受けることが大切です。

まとめ

 世界中を震撼させた新型コロナ禍の煽りを受けて、手堅い経営を行っていた企業の中にも経営存続の危機に直面した法人が多数あります。どのような企業であれ、経営危機に陥るリスクはゼロでは無いということです。

 経営が順調である場合はもちろん、赤字決算が続き資金繰りの悪化が表面化したような時には、距離を置いて経営現場を俯瞰できる第三者の目線を参考にすることで、「目から鱗」の意見が得られる可能性があります。

 今日でも歴史ある企業の経営者様が、“屏風は広げ過ぎると倒れる”との心得を口にすることがあります。目前の経営状態に対し、「屏風のどの部分が広がり過ぎていて、それが全体にどのような歪みをもたらしているのか」という状況を冷静に観察することが、事業再生や企業進化の“肝”となります。そのことが、本稿を通じて皆様に伝われば幸いです。

 なお、本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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監修者

  • 今泉 順理

    東京共同会計事務所 コーポレート・アドバイザリー部 
    パートナー
    株式会社東京共同FAS
    代表取締役

    海外ネットワークも含めた各分野の専門家とコラボレーションを行いながら事業再生、M&Aと経営統合およびグループ企業組織再編、グループ企業(リスク)マネジメントなど複合化した経営課題に直面するプロジェクトに数多く従事している。

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