「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の
「再生型私的整理手続」について解説

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「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の<br>「再生型私的整理手続」について解説

 2022年3月4日、中小企業の円滑な事業再生をこれまで以上に支援する取り組みとして、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が公表されました。三部構成からなる同ガイドラインの第三部には、法的整理手続によらない「私的整理」の手続について記載されています。そこで本稿では、私的整理の中でも中小企業の円滑な事業再生を目的とする「再生型私的整理手続」について、コメントします。

※出典:一般社団法人全国銀行協会「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」
   (https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/sme-guideline/)

「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」とは

 日本国内にある約421万企業のうち、99.7%を占める中小企業。中小企業の持続的成長を支援することは、国内経済を守ることに他なりません。2022年3月4日、一般社団法人全国銀行協会によって公表され、同年4月15日から施行された「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」も、中小企業の円滑な事業再生等を一層支援するための取り組みの一環です。

 「平時」「有事」の各段階において、中小企業と金融機関のそれぞれが果たすべき役割を明確化し、事業再生に関する基本的な考え方を示すとともに、中小企業がより迅速に事業再生に取り組めるよう、新たな準則型私的整理手続について定めている点が、同ガイドラインの特徴と言えます。

 ガイドラインの目的を定めた第一部、基本的な考え方を示した第二部、私的整理手続を定めた第三部によって構成され、本稿のテーマである「再生型私的整理手続」は、第三部「中小企業の事業再生等のための私的整理手続(中小企業版私的整理手続)」内に手続きの手順等が記載されています。

 経営改善に取り組む中小企業が経営上の難局を乗り切るため、債権者である金融機関等との共通の認識の下、一体となって事業再生に向けた取り組みを進めるための方向性を取りまとめたと評価されます。

中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方

 三部構成のガイドラインのうち第二部では、中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方が定められています。具体的には、「平時(あるいは有事)における中小企業者と金融機関の対応」「私的整理検討時の留意点」「事業再生計画成立後のフォローアップ」の各段階において、中小企業と金融機関とが留意すべき事項がまとめられています。 特徴的なのは、「平時」における留意事項が定められ、中小企業と金融機関との、平時からの信頼関係の重要性が強調されていることだと言えます。それぞれの項目のポイントを見てみます。

時における中小企業と金融機関の対応

中小企業と金融機関が、平時から適時・適切な対話によって信頼関係を構築しておくことで、仮に中小企業が有事に陥っても、金融機関による迅速且つ円滑な支援検討が可能となります。これにより、中小企業の早期事業再生等につながることが期待されています。 また、金融機関側にも、中小企業から開示・説明を受けた事実や内容だけで不利な対応を行わないように努めること、有事への移行の兆候を把握するよう努めること、事業改善計画の策定・実行に関する取り組みを促し支援することなどが求められています。

有事における中小企業と金融機関の対応

有事において、債務返済猶予や債務減免等によって借入金の負担が軽減されたとしても、「平時」に有していた収益力と同水準を確保することと、自律的・継続的な成長に向けて収益力の回復に取り組むことが重要です。つまり、「本源的な収益力」を回復することが必要不可欠です。 さらに有事の際は、実行可能性・経済合理性などが確保された事業再生計画策定に取り組むことを求めています。また、金融機関には、事業再生計画策定の支援や実務専門家、外部機関の活用が求められています。

私的整理検討時の留意点

「経営者保証に関するガイドライン」のさらなる周知と活用を進め、保証人の保証債務は、主債務と保証債務の一体整理に努めることが求められています。また、中小企業が法的整理を実施する場合も、保証人は、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の公表に併せて公表された「経営者保証に関するガイドライン」を活用することが求められています。

事業計画成立後のフォローアップ

事業再生計画成立後、外部専門家や主要債権者は計画の遂行状況を定期的にモニタリングすること、計画と実績の乖離が大きい場合は、中小企業や主要債権者が相互に協力し、乖離の理由を分析したうえで計画の見直しや法的整理、廃業を含めた抜本的な対策に取り組むことが求められています。

裁判外で処理する「私的整理」とは

 ガイドライン第三部では、「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」について定められています。「私的整理」とは、破産、民事再生、会社更生などの法的手続きによらず、裁判外で債務整理の処理を行うことです。

 事業再生計画案を作成し、対象債権者全員の同意を得た上で債務の返済猶予や減免を行う「再生型私的整理」と、弁済計画案を作成し、対象債権者全員の同意を得た上で一部弁済を実行し、残存する債務について免除を受ける「廃業型私的整理」の、それぞれの手続きについてルールが設けられました。

 これらのルールは、法律上定められた法的拘束力を持つものではないため、ガイドラインにも「準則型私的整理手続の一つ」と記載されています。ただ、金融機関をはじめ金融界・産業界の代表者、弁護士など中立的な専門家などが協議を重ねて策定したものなので、債務者である中小企業も債権者である金融機関及び利害関係を有する人たちにより、尊重・遵守されることが期待されています。

 これまでの私的整理ガイドラインは、主に大企業・中堅企業を念頭に置いたものでしたが、今回策定された「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」では、「平時」における中小企業と金融機関の対応や、事業再生計画成立後のフォローアップについて、策定及び明示されたこと、債務超過の解消を「3年以内」から「5年以内」に変更し、経営者の退任を原則としないことを明示したことなどにより、より中小企業の実態に即した内容となっています。

再生型私的整理手続について

 前述のように「再生型私的整理手続」とは、経営困難な状況にある中小企業(債務者)が、弁護士や会計士など外部専門家の支援を受けて事業再生計画案を策定、第三者支援専門家による調査報告を経て金融機関など対象債権者全員の同意を得た上で、債務の返済猶予や減免等を受け、事業再生を図るものです。手続きの流れは、概ね下記のようになります。

(1)再生型私的整理の開始

主要債権者に対して手続利用を申し出、主要債権者全員からの同意を得た上で第三者支援専門家を選任します。専任された第三者支援専門家は、中小企業の資産・負債及び損益の状況の調査検証や、事業再生計画策定の支援を開始します。

(2)一時停止の要請

資金繰り安定化のために必要と認められる場合は、対象債権者に対して、元本返済等の一時停止を要請します。

(3)事業再生計画案の立案・内容・調査報告

中小企業は手続き開始から3~6ヵ月程度で、自らあるいは外部専門家の支援を受けて事業再生計画案を作成します。事業再生計画案の内容については、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」P20~21に記載されている「(4)事業再生計画案の内容」を参照します。
同時に第三者支援専門家は、独立・公正な立場で事業再生計画案の相当性や実行可能性について調査し、調査報告書を作成します。

(4)債権者会議の開催と事業再生計画の成立

原則として、全ての対象債権者による債権者会議を開催し、第三者支援専門家が対象債権者全員に対し、事業再生計画案の調査結果を報告します。事業再生計画案の説明、質疑応答及び意見交換を行い、対象債権者の合意形成に向けて努力します。

全ての対象債権者が同意した場合は事業再生計画が成立するが、全ての対象債権者から同意を得ることができないことが明確になった場合には、私的整理手続が終了します。ただし、事業再生計画案に対して不同意とする対象債権者は、その理由を速やかに第三者支援専門家に対して誠実に説明する義務を負います。

(5)保証債務の整理

経営者の保証人が保証債務の整理を図る場合は、「経営者保証に関するガイドライン」を活用して中小企業の主債務と一体的に整理します。

(6)事業再生計画成立後のモニタリング

外部専門家や主要債権者は、計画成立後3事業年度を目安とし、定期的なモニタリングを実施します。モニタリングの結果、債務者である中小企業に対して計画達成に向けた助言を行ったり、計画の変更や抜本再建を提言したり、法的整理手続、廃業等への移行を検討します。

大事なことは

 「新たな準則型私的整理手続について定めている」と前述しましたが、何か手法を取るときに選択肢の幅が増えたことは総論として良いことであると思います。 一方で日々の経営で毎日のように直面するテーマでもない中で、多くの選択肢を熟知することは至難の業であり時間や費用面での負荷も多いと想像できます。

  ガイドラインでは、中小企業と金融機関の円滑なコミュニケーションとの表現が散見されますが、医療におけるホームドクターのように、いま直面する課題にどこのドアをノックすれば良いのか相談できる方(それが金融機関なのか顧問税理士なのか様々なケースがあるでしょう)を経営者が引き出しとして持っておくことが重要かと思います。

 なお、本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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監修者

  • 今泉 順理

    東京共同会計事務所 コーポレート・アドバイザリー部 
    パートナー
    株式会社東京共同FAS
    代表取締役

    海外ネットワークも含めた各分野の専門家とコラボレーションを行いながら事業再生、M&Aと経営統合およびグループ企業組織再編、グループ企業(リスク)マネジメントなど複合化した経営課題に直面するプロジェクトに数多く従事している。

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