ベトナムの付加価値税の改正ポイント|
グローバル・ミニマム課税、電子商取引(EC)の課税なども解説

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ベトナムの付加価値税の改正ポイント|<br>グローバル・ミニマム課税、電子商取引(EC)の課税なども解説

 経済成長が著しいベトナム。2024年のGDP成長率は7%を超え、2025年も継続して7%程度の成長が予想されています。このような活況の中でベトナムへの投資や進出を検討する企業も増加傾向にありますが、その際に正確に把握しておきたいのがベトナム税制の最新動向です。
(出典:外務省 「海外進出日系企業拠点数調査」

 ベトナムには、主要な税目として、法人税、個人所得税、付加価値税、関税、特別消費税、環境保護税、外国契約者税等が存在します。なかでも、付加価値税については、税率の一時的な減税や還付規定の変更等、近年、企業にとって影響の大きな改正が相次いでいます。本稿では、ベトナムへの投資・進出を検討している企業や現在取引を行っている企業担当者を対象に、ベトナムの付加価値税法改正(2025年7月以降適用)のポイントおよびグローバル・ミニマム課税について詳しく解説します。
参考「ベトナム進出の際の基本的な現地税制のポイント」
参考:Vietnam Newsletter 2025年7月1日に適用される付加価値税のアップデート

付加価値税とは?注目したい改正のポイント

 付加価値税とは、日本における消費税に該当する税金です。具体的にはベトナム国内で消費される商品・サービスに対して課される間接税です。税率は、以下の3種類となります。

  • 輸出品・輸出サービス:0%
  • 産業用の清潔な水、肥料、医療機器、教学用具、技術科学サービス等の一定の商品・サービス:5%
  • その他の商品・サービス:10%(標準税率)

 付加価値税は1999年にベトナムで導入されてから適宜改正されています。そのなかでも近年注目されているのは、経済支援策として標準税率10%を一時的に8%まで引き下げる措置と、2024年11月に公布された付加価値税法(第48/2024/QH15号)に基づき2025年7月1日から施行が予定されている付加価値税還付規定の改正等です。本章ではこれらの点について詳しく解説します。

標準税率10%が一時的に8%へ

 ベトナムでは、2022年2月1日から、付加価値税の標準税率が引き下げられています。一定の品目・サービスに対して10%から8%に軽減されました。当初はコロナ禍の支援措置として時限的に導入されたものですが、その後の個人消費の低下等を受け、政令によって数回の延長が行われました。現在は2025年6月30日まで延長されています。

 なお、景気刺激策であるという趣旨をふまえ、銀行、証券、保険、不動産事業等の商品・サービスについては当該措置の対象に含まれていません。付加価値税の標準税率の引き下げによって、直接恩恵を受けることができる人々は商品やサービスの購入コスト(支出)を削減できることになります。

 一方、企業の場合には、生産コストを削減できるため、製品の販売価格を下げる(値下げ)ことが可能となります。そのため製品の競争力を高め、事業拡大に寄与するのではないかと期待されています。このような背景もあり、2025年6月17日にベトナムの国会は2025年7月1日から2026年末まで8%の軽減税率の適用を延長する議決を通過させました。

付加価値税還付規定の改正

 付加価値税には、例えば、ベトナムの国内事業者が、商品・サービスを販売する際に消費者から受け取るアウトプットVAT(日本でいう売上税額)と、購入する際に支払うインプットVAT(日本でいう仕入税額)があり、アウトプットVATからインプットVATを控除した差額を納税することになっています(この方式を「控除方式」といいます)。控除しきれないインプットVATの場合、国内事業者は翌期に繰り越しするか、還付(限定的なケース)を受けることになります。

 今回の第48/2024/QH15号による改正では、この還付規定に関していくつかの変更がなされています。

変更例)

■現行の税制

 例えば、以下のいずれかに該当する企業が還付対象とされています。

・VAT控除方式を採用している新規プロジェクトが操業前の段階にあり且つインプットVATの累計額が3億ドン以上である一定の企業

・控除しきれないインプットVAT額が3億ドン以上である輸出企業等( 但し、輸出企業の場合、還付可能な額は輸出売上の10%まで)。

■改正後の税制

 現行の規定に加えて以下のいずれにも該当する企業も還付対象となります。

・5%税率の対象となる商品・サービスのみを取り扱っている企業

・12か月(または4四半期)連続で3億ドン以上の控除しきれないインプットVAT額がある企業

 なお、5%税率の適用対象商品・サービス、と標準税率等の適用対象商品・サービスも取り扱っている企業は一定の条件を満たせば(5%税率の対象商品・サービスの分に対し)還付対象となりますが、還付可能な税額の計算方法等の詳細なガイダンスについて2025年7月1日に公布された政令No.181/2025/ND-CP (「政令No.181/2025/ND-CP」)、および2025年7月1日に発行された通達No.69/2025/TT-BTC(「通達No.69/2025/TT-BTC」)にてご確認いただけます。 また、今回の改正では還付条件・納税者・税務当局の責任についても明確化されました。「VAT控除・還付に関する禁止行為」という条項が新設され、運用ルールもわかりやすくなっています。

インプットVATの控除要件の厳格化

 インプットVATの控除要件は、現行の税制では以下2点の証憑を提出することです。

 ①適格なVATインボイスもしくは輸入時のVATの支払領収書(納税証明書)

 ②銀行決済等の非現金支払証憑(但しVAT込みの支払金額が20百万ドン未満の場合を除く)      

 今回の法律の改正において、一定のケースを除き、この②の20百万ドン未満という金額に関わる条件が削除されています。この法律の規定に関して、政令No.181/2025/ND-CPに基づき、VAT込みの支払金額が5百万ドン以上であれば、非現金支払証憑が必要という詳細な規定が定められます。すなわち、支払額が5百万ドン未満の場合、改正前のままで銀行決済等の非現金支払証憑は必要がありません。また、輸出する商品・サービスについては、現行の税制の上記①・②の要件に加えて、別途外国企業と締結する販売契約等が必要でしたが、今回の改正では、これに加えて輸出物品に対する控除・還付の濫用の防止のため、梱包明細書、船荷証券等の証憑の提出も必要になりました。この輸出商品・サービスに関わるインプットVATの控除要件についての詳細なガイダンスはNo.181/2025/ND-CPにてご確認いただけます。

その他

 その他、今回の改正において留意したいポイントとして、以下が挙げられます。

 ①VATの納税者の定義に「ベトナム国内に恒久的施設(PE)を持たない
  電子商取引(EC)やデジタルプラットフォーム経由で物品を提供する外国事業者」
  等を追加

 ②輸入品に対する課税価額を変更    

 現行の税制ではこの課税価額の構成要素の一つが「国境における輸入価格」とされていましたが、今回の改正で「輸出入税法に定めた課税価額」へと変更されました。この変更により付加価値税法と輸出入税法に定める輸入品に関わる課税価額の定義が一致することで実務上、より運用しやすくなったと考えられます。したがって、改正により輸入品のVAT課税価額は輸出入税法に定めた課税価額、輸入関税、追加輸入関税(あれば)、特別消費税(あれば)および環境税(あれば)から構成されることとなります。

グローバル・ミニマム課税

 多国籍企業による高課税国から低課税国への利益移転を抑制し、各国の国際的な税率引き下げ競争を防止するといった背景から、OECDの「BEPS(税源浸食と利益移転)包摂的枠組」に参加する約130ヵ国・地域以上の間でグローバル・ミニマム課税の導入が合意されました。これは多国籍企業が進出先の国で適用される法人税の実効税率が最低税率である15%に満たない場合、その差額分を追加で課税し、最終的な税負担を15%に引き上げる制度です。外国投資誘致のため様々な優遇税制を設けているベトナムにおいても、この制度による影響は避けられません。

 当初からベトナム政府は、近隣諸国の動向を踏まえながら、国際的な課税ルールの導入に対応し、必要な制度改正を随時行っています。ベトナムへの投資を検討している企業、またはすでにベトナムに現地法人を持つ企業は、現地の最新の状況を把握し、適切な対策を準備しておく必要があります。グローバル・ミニマム課税におけるベトナム国内での影響ついては公開済のニュースレターにおいても解説しておりますので、ご興味のある方は下記ページよりぜひご一読ください。

 参考
 ・グローバル・ミニマム課税のベトナムへの影響
 ・デジタル課税とミニマムタックスという新しい国際課税ルールとベトナム

ベトナムでのグローバル・ミニマム課税の導入状況

 ベトナムでは、グローバル・ミニマム課税について、2023年11月29日付の
議決No.107/2023/QH15を採択し、2024年1月1日から施行しています。
本議決に基づき、重要な点を以下にまとめます。

①適用対象となるのは、一定の場合を除き、最終親会社の連結財務諸表における
 年間売上高が、直近4年間の事業年度のうち少なくとも2事業年度で
 7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループの構成企業です。
 なお、適用対象となる売上高の基準額を算定する際には、参照売上高が
 発生した年度の直前12月に、ベトナム国家銀行が公表した中央為替レートの
 平均が用いられます。

②課税関係は、以下の二つを整理しています。
 一つ目は、ベトナム国内で多国籍企業の構成企業が事業活動を行い、
 現地での当該構成企業の実効税率が最低税率の15%に満たない場合、
 ベトナム国内で最低税率まで上乗せ課税を行う適格国内ミニマム課税制度
(QDMTT – Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)。
 

 二つ目は、ベトナムにある最終親会社等がベトナム以外の国にある子会社の
 所在国での実効税率が最低税率15%に満たない場合、ベトナムでの
 最終親会社等に対して最低税率の15%まで追加で課税する
 所得合算ルール(IIR – Income Inclusion Rule)。

③追加課税税額は次の方式で算定されます。

 QDMTT適用の場合、追加課税額=
 ((最低税率の15%−実効税率)×追加課税対象収益)+当該年度の追加課税調整税額
 (あれば)

 IIR適用の場合、追加課税額=
 ((最低税率の15%−実効税率)×追加課税対象収益)+当該年度の追加課税調整税額
 (あれば)− QDMTT課税額(あれば)

④申告書の提出および納付期限
 提出する資料は、追加法人税申告書および各会計基準の違いによって
 生じる差異に関する説明書等となります。
 提出期限および納付期限は、QDMTTが適用される多国籍企業の
 ベトナムにおける構成企業は、事業年度の終了後12か月以内、
 IIRが適用されるベトナムにおける最終親会社等は、最初の事業年度の
 終了後18か月以内、以降は15か月以内です。

ベトナムの現地法人への影響と対策

 ベトナムの標準法人税率は20%ですが、海外からの投資促進、企業誘致のため、ベトナム政府は多くの税制優遇措置を設けてきました。具体的には、再生可能エネルギー、ソフトウエア商品の開発等の事業に対して最も手厚い優遇税制が適用され、15年間にわたり法人税率10%が適用、および4年間の法人税免税(0%)、とその後9年間は法人税を半額に軽減(例:10%)、また、適格工業団地で設立された場合には、2年間法人税免税(0%)とその後4年間の税額半減(10%)等のような優遇が受けられるケースがあります。こうした税制優遇措置の影響もあり、ベトナム現地法人の「現地版」グローバル・ミニマム課税上の実効税率が最低税率の15%に満たないケースが多く存在すると考えられます。これらのケースはQDMTTの適用対象となり、現地の報道では100社以上が該当すると言われています。外国法人のベトナム子会社がベトナムのQDMTTの適用対象となった場合、最低税率の15%に達するまで対象収益に追加で課税されます。この結果、ベトナム政府が設けている優遇措置の効果が消失してしまうことになります。なお、ベトナム現地法人がQDMTTの適用対象となる場合、親会社側でベトナムにおいて追加で納付された税額について、二重課税とならないよう外国税額控除が認められるかを、念のため確認しておくことが推奨されます。

 なお、ベトナム政府は現地版のグローバル・ミニマム課税の導入によって、企業誘致のための税制優遇措置が形骸化してしまうことを認識しており、今後も継続的に投資を呼び込むため、新たな支援策を検討しています。例えば、ベトナムでは、R&D活動の実施に関する支援や投資促進に向けた補助金等の政策について、導入が検討・展開されているようです。したがって、ベトナム子会社が本制度の適用対象となる場合、現地の専門家と連携しながら、対応措置を確認の上活用することが重要です。

電子商取引(EC)にかかる課税と留意点

 近年、ベトナムでは電子商取引(EC)が活発になっています。2022年から2025年にかけて年平均25%の成長を見せ、市場規模は2025年には350億円に達する見込みと言われています。これに対し、ベトナム政府は、適正な課税を行うべく、調査・税制の整備を進めています。

 本章では、当該電子商取引(EC)に関わる最新の動向とその留意点について解説します。電子商取引(EC)にかかる課税に関しても別のニュースレターにおいて言及しておりますので、ご興味のある方は以下のページよりご一読ください。

 参考
 ・ベトナムでの電子商取引に掛かる課税状況の動き

外国契約者税の適用

 外国契約者税とは、外国企業等がベトナム企業等との契約によりベトナムにおいて収入が発生する場合に、当該収入が課税対象となる税金です。外国契約者税は、付加価値税(VAT)と法人税(CIT)(外国法人の場合)/個人所得税(PIT)(個人の場合)から構成されます。

 電子商取引(EC)において、2021年9月29日付の通達No.80/2021/TT-BTC等により恒久的施設を有しない外国事業者は、原則として現地で発生する売上に対して一定の比率でVATとCITが課されます。申告・納付方法は、外国法人が直接、又はベトナム側に委託する形で、ベトナムの税務当局に税務登録・税務申告・納税を行います。

 一方、電子商取引(EC)を行う個人に関しては、2025年6月9日に政令No. 117/2025/NĐ-CPが交付されました。本政令は2025年7月1日に発効します。この政令に基づき、非居住者の外国個人の場合、一定の年間売上による免除措置を除き、原則として現地で発生する売上に対して一定の比率でVATとPITが課されます。申告・納付方法は、電子商取引(EC)を決済機能が付いているデジタルプラットフォーム経由で行う場合、そのデジタルプラットフォームを運営している事業者等が当該非居住者である外国個人の代わりにVATとPITを源泉・納付しますが、決済機能が付いていないデジタルプラットフォーム経由であれば、その非居住者である外国個人が自ら申告・納付することになるので注意が必要です。

輸入関税の免税措置の廃止

 2025年1月3日付の決定01/2025/QĐ-TTgによって、国際宅配便で送られる100万ドン以下の輸入品に対する輸入関税および付加価値税の免税措置が廃止されました。当該決定は、2025年2月18日から適用されています。

 近年、ベトナムで電子商取引(EC)が急増している中、少額の免税措置を受けるためECサイトを通じた少額物品の輸入が増加したための措置で、この決定が施行されたことにより輸入物品に対して統一な取り扱いをし、輸入物品の管理の向上に資すること、および低品質の物品を輸入するための免税措置の濫用等を防止する効果が期待されています。

 当該免税措置の廃止によって、ベトナム政府にとっては税収の増加が見込めるだけでなく、関税のかからないベトナム国産品の価格競争力が相対的に高くなり、結果として国内産業の保護にもつながることに加え、ベトナム国内で品質を向上させる機会が与えられることにも期待されています。

まとめ

 昨今のベトナムの税制改正が子会社等の現地法人にどのような影響を及ぼすか、また、親会社としてどのように対応すべきかを把握するには、現地の最新の動向・情報を継続的に把握することが重要です。これにより、コンプライアンスの確保、税務コストの見える化等につながり、コストと効果のバランスが取れた事業運営が可能になります。

 東京共同グループの一員である株式会社東京共同ホールディングスでは、ベトナム出身の税理士が現地の様々な専門家と提携しながら適切かつ効果的なアドバイザリーサービスを提供しています。ベトナム進出をお考えの企業様や既に進出しておりお困り事のある企業様、ぜひお気軽に弊所までご相談ください。

なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。
記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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監修者

  • ヴ ティ フオン リン(Vu Thi Phuong Linh)

    東京共同会計事務所  事業開発企画室
    グローバルタックスチーム ベトナムデスク 
    ベトナム国税理士

    ベトナムの税務総局及び大手税理士法人において租税条約を中心に国際税務、新規事業開拓、関税サポートなどの職務経験を積んだ後、東京共同会計事務所に入所。
    現在は、国際税務に関するサービスとして、グローバル・サプライ・チェーン・マネジメント(GSCM)サービスや関税・間接税コストの削減に係るコンサルティング業務にも従事している。
    ベトナムで培った幅広い人脈を活かし、日本国内にいながら日本人専門家と一緒に日本企業のベトナム進出を国際税務(ベトナム内国税を含む)の観点から支援している。

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