EUの炭素国境調整措置(CBAM)への日本企業の対応について

  • 温暖化対策・脱炭素
EUの炭素国境調整措置(CBAM)への日本企業の対応について

 2026年1月より、EUの炭素国境調整措置(CBAM)の本格実施が開始されます。EU域外から肥料、セメント、鉄・鉄鋼、アルミなどのCBAM対象産品を輸入する輸入者は、CBAM申告者としての認定を受けた上で、輸入産品の二酸化炭素(CO2)の埋込排出量に応じたCBAM証書を購入し、翌年、前年1年分の輸入製品の埋込排出量の総量を申告(CBAM申告)すると共に購入したCBAM証書の精算をすることになります。

 本稿では、2026年1月以降のCBAM規則の概要と日本企業が対応すべき事項の概要について説明します。
 
 なお、欧州委員会は、各分野の規制の簡素化を進めており、CBAMに関しては、本年2月26日に欧州委員会によるCBAM規則の見直し案が公表されています。今後、欧州議会、EU理事会で議論が行われることから、欧州委員会の見直し案がそのまま成案となるのかは現時点では不透明です。

CBAM規則の概要

 2026年1月以降に、肥料、セメント、鉄・鉄鋼、アルミなどのCBAM対象産品をEU域内に輸入しようとする輸入者[輸入CBAM産品の埋込排出量の年間合計が50トンを超えない輸入者を除く]は、事前にEU当局に申請して「認定CBAM申告者」となる必要があります。埋込排出量の算出に当たっては、実際の排出量(実際の排出量を適切に決定できない場合はデフォルト値)に基づくこととされています。

 認定CBAM申告者は、暦年の四半期ごとに、輸入したCBAM対象産品のデフォルト値を基に算出した埋込排出量[又は前年のCBAM証書の数]の少なくとも80%[50%]に対応するCBAM証書を購入します。暦年終了時には、1年間に輸入したCBAM対象産品のCO2埋込排出量の総量を、認定CBAM検証機関の検証を受けた上[デフォルト値を基に算出した場合を除く]、翌年5月31日[8月31日]までに申告(CBAM申告)します。また、認定CBAM申告者は、購入したCBAM証書の精算を7月1日[10月1日]までに行います。
 (注)[ ]は欧州委員会の簡素化案を示します。

日本の生産者の対応

 先ずは、欧州委員会のCBAM規則見直し案の行方を注視する必要がありますが、以下の事項については、EUの輸入者と調整しておくことをお勧めします。

(1)埋込排出量の算出方法
 埋込排出量の算出方法については、実際の排出量を算出することが原則ですが、実際の排出量を適切に決定できない場合にはデフォルト値によることも認められています。欧州委員会見直し案では、デフォルト値に基づく場合は検証機関による検証は免除されることとなります。
 なお、現行の四半期ごとのCBAM報告は、本年12月31日までの移行期間中の措置とされています。

(2)CBAMレジストリへの登録
 実数量による埋込排出量を算出する場合、生産者が必要なデータをEUの認定CBAM申告者に提供して、認定CBAM申告者がCBAMレジストリに埋込排出量を登録するほかに、生産者がCBAMレジストリに埋込排出量を直接登録することも認められています。ただし、生産者が登録する場合、生産者が認定CBAM検証機関の検証を受けることになります。

(3)輸入CBAM対象産品の年間埋込排出量
 欧州委員会の簡素化案にある輸入者の除外規定が導入される場合、EUの輸入者がこれに該当するのかによる影響は大きいことから、輸入見込み等をすり合わせておくことをお勧めします。なお、その際、EUの輸入者側では日本以外からの輸入見込みも勘案する必要があります。

留意事項

 上述は各CBAM産品カテゴリーに共通する事項の概略をまとめたものとなっています。欧州委員会は、CBAM報告に関して、CBAM産品カテゴリーごとの様々な要件を公表しています。従って、実際にデータ提供等を行う際には、欧州委員会の公表資料を確認する必要があります。

(参考文献)

CBAM規則:https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32023R0956
欧州委員会によるCBAM規則見直し案:https://commission.europa.eu/document/download/606b4811-9842-40be-993e-179fc8ea657c_en?filename=COM_2025_87_1_EN_ACT_part1_v5.pdf 
及びhttps://commission.europa.eu/document/download/dc72f9cb-2b58-465a-8a33-8c5d6b6efe8b_en?filename=COM_2025_87_annexes_EN.pdf 
欧州委員会の作業文書:https://commission.europa.eu/document/download/b615ed29-58e2-4248-b87e-11929119f0c0_en?filename=SWD-Omnibus-87_En.pdf 

 本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。
 本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。
 個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。

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執筆者

  • 鶴田 仁

    東京共同会計事務所 事業開発企画室 シニアアドバイザー
    <保有資格>
    通関士有資格者
    安全保障輸出管理実務能力認定 STC Advanced
    <連絡先>
    hitoshi-tsuruta@tkao.com 

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