【第4回】税賠保険とは?
会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

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【第4回】税賠保険とは?<br>会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

 東京共同会計事務所の窪澤と申します。
このコラムでは、複数回に渡って、税務業務に携わる税理士や公認会計士の皆さまが知っておきたい税理士賠償責任(以下「税賠」といいます。)に関するポイントをお届けしてまいります。

※本コラムは2019年掲載の記事となります。最新の情報は専門家へお問い合わせの上ご確認いただけますと幸いです。

意外と加入率が低い税賠保険

 税賠保険の保険代理店である株式会社日税連保険サービスのHPによりますと、税賠保険とは、日本税理士会連合会を保険契約者とし、税理士事務所及び税理士法人を保険加入者とする団体契約であり、正式名称を税理士職業賠償責任保険といいます。大まかには、税理士の過誤(ミス)を起因とした税賠事故が発生した場合に、当該過誤を起因として顧問先が本来支払う必要がなかったと思われる税額を支払うこととなってしまったとします。このような場合で、税理士等が顧問先から当該税額を損害賠償金として請求され、これを税理士等が負担した場合に、税理士等が被った損害について保険金を支払ってくれる保険です。

 専門家責任に対する保険としては、ほかには弁護士、司法書士、行政書士等に対する保険があり、いずれも専門家が起こしたミスに対応する保険となっています。

 ただし、すべての損害について保険金が下りるとすると、例えば、あえて過少申告を行って税務調査等で否認されたら保険を適用するという可能性もあることとなってしまいます。このような事例ではモラルハザードの観点から問題があると考えられ、よって、原則、そのようなモラルハザードが起こるような事例は、保険の適用事例からは除かれ、例えば、税理士のミスにより顧問先等に過大申告が発生した場合などの一定の事例に限り、税理士に生じた損害に対して保険金が支払われることとなっています。

 ミスを防ぐ工夫は、どの税理士等も行っているとは思いますが、それでも発生してしまうのが事故。そのようなことを考えますと、税理士等の税賠保険加入は必須であると推測されますが、実際には、2019年2月1日時点での加入率は、個人で50%、法人で84%※のようです。加入率が意外と低いのは、一定の事例にのみ保険金が支払われるということがあるからかもしれません。

税賠保険はどんな事故に適用される?

 また、税賠保険の適用が多い事故例には、消費税の「課税事業者選択届出書提出漏れ」、法人税の「所得拡大促進税制適用漏れ」等が挙げられています※。

 例えば、消費税の免税事業者が、一定の要件の下で、オフィスビルを建設することになった場合に、オフィスビルを建設する日の前事業年度の末日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、オフィスビルの建設に伴う消費税の還付を受けることができると考えられますが、このような場合に、届出書の提出期日を失念して徒過等してしまうケースが多いようです。

 課税事業者選択届出書提出漏れの原因としては、

1.担当税理士が単純に失念したケース、
2.担当税理士が顧問先のオフィスビル建設を把握していなかったケース、
3.売上や費用の状況により課税事業者と免税事業者のいずれが有利かの判断が難しく、これを見誤ってしまったケース、

などが考えられますが、1.の場合で、顧問先から損害賠償請求を受け、これを支払うこと等によって税理士等に損害が発生した場合は、ほぼ保険金が支払われるのではと思われます。なお、2.や3.の場合は、状況にもよりますが、訴訟等で税理士に責任があるとされ損害賠償を負ったことにより税理士等に損害が発生した場合には、保険金が支払われると思われます。

前もって行うアドバイスには特約が必要!

 税賠保険には、前述のように申告書作成・届出書提出においてミスをしてしまった場合に対応する主契約のほか、事前税務相談業務担保特約(事前特約)及び情報漏えい担保特約も付帯特約としてあります。但し、特約は主契約の契約がないと、加入出来ません。

 これら特約のうち、事前特約は、例えば大まかには、顧問先から「これから○○したいのだけど、◇◇しても大丈夫ですか?」というような税務にかかる質問を税理士等が受け、アドバイスをした場合に、そのアドバイスが誤っていたことに起因して、納税額が増えた等の損害が顧問先に発生し、当該損害について税理士が損害賠償請求され、当該請求により税理士等が被った損害について保険金が支払われるような特約です。昨今の税理士は、申告書を作成するだけの従来業務ではなく、顧問税理士がついている顧客に対し、専門的なコンサルティング業務のみを受託するようなケースも増えているのではと思われますが、税賠保険(主契約)に加入していても特約に加入していなかった場合には、アドバイスにミスがあり、当該アドバイスにより顧客に損害が発生し、損害賠償請求を受けた場合でも、保険金が支払われない可能性があります。税賠保険加入者のうち事前特約の付保割合は44%※であり、こちらもまだまだ加入が少ないように思われました。

 情報漏えい担保特約については、税理士業務を対象とする保険ではありませんが、税理士は、業務の性質上、個人情報を取扱うことが非常に多いことも考えて、事務所として付保するかどうかを検討する必要があるのではないかと思います。

事故が発生したらまずは保険会社に連絡

 保険加入者である税理士等が、顧問先から損害賠償請求を受けた場合には、税賠保険の適用の確定・未確定にかかわらず、まずは保険会社に連絡をして事故発生の旨及び概要を報告し、その後、正式には「事故報告書」という書面を作成、提出するという手続きがあります。保険の約款規定に従わず、保険会社へ連絡せずに自身の考えで損害賠償金を支払ってしまった場合には、保険金が受領できないという可能性もあります。

 なお、税賠保険は団体保険であり、自動車保険などとは違い、事故を起こして保険金を受領したとしても翌年の保険料の上昇にすぐさま繋がってしまうということはありません。もちろん事故は起こさないに越したことはありませんが、税賠保険の加入者は、万一の時は忘れずに、まずは事故発生の連絡を保険会社に行うことが重要と思われます。

 次回も、税賠保険について引き続きお話ししていきたいと思います。

 ※いずれも、株式会社日税連保険サービスのHPによります。事故の状況等により相違する内容もありますので、詳細は必ず株式会社日税連保険サービスのHP等にてご確認下さい。

今回のポイント

・税賠保険の加入は必須、事前特約にも加入が望ましい
・いざ事故が発生したら、まずは保険会社に必ず報告すること

 なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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執筆者

  • 窪澤 朋子

    東京共同会計事務所 コンサルティング部 
    マネージャー 
    株式会社東京共同リスクマネジメントサービス

    税務コンプライアンス業務や事業承継コンサルティングを対応しながら、前職時代に税賠に関する訴訟や交渉案件に携わった経験から、税賠予防のコンサルティングにも従事。リスク管理の視点から幅広い提案を行っている。

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