【第10回】新型コロナウイルス感染症流行と事務所のリスク
会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

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【第10回】新型コロナウイルス感染症流行と事務所のリスク<br>会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

 みなさん、こんにちは。東京共同会計事務所の窪澤と申します。
今回は、会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイントの第10回として、「新型コロナウイルス感染症流行と事務所のリスク」についてお話しさせていただきます。

 ※本コラムは2020年掲載の記事となります。最新の情報は専門家へお問い合わせの上ご確認いただけますと幸いです。

会計事務所におけるテレワーク

 新型コロナウイルス感染症流行により、4月から緊急事態宣言が出され、私たちが直面する初めての事態が訪れました。7月の現在では、ようやく少しずつ日常生活に戻りつつありますが、新型コロナウイルス感染症の流行拡大の防止については、予断を許さない状況となっています。

 税理士法に抵触しない範囲での働き方改革などを通じ、環境が既に整っていた事務所もあったかもしれませんが、日本税理士会連合会によりテレワークに関するFAQも発表され、税理士法に抵触しない範囲も明文化されたことで、多くの会計事務所では、暫定的にテレワークを進めるなど、体制の整備に戸惑ったのではないでしょうか。延長された確定申告、そして3月決算への対応を、テレワークで乗り切る必要が生じ、手探りで業務を進める場面なども多かったことと思います。

 電子帳簿保存法などの法に準拠したうえでの範囲とはなりますが、書類の保管コストの削減や記録の整理の観点から求められていたペーパーレス化が、テレワーク対応のために半ば必須となり、紙ベースでの作業を急に卒業できず、申告書作成担当者、内容を確認するレビューアーやサイナーなどが、ファイルの受け渡しのために出勤するということもあったのではと思われます。

ライアントとの心理的距離はなるべく密に

 定期的に行っていたクライアントへの訪問も、原則として中止を余儀なくされ、従来、書類の受け渡しを訪問の際に行っていたクライアントについても、会計データのメール送信、証憑類については郵送やPDFでの送付など、普段と異なる対応が必要となったのではないかと思われます。

 クライアントの経理担当者との連絡手段は、電話が繋がらず、メールのみとなったケースも多かったとの話もうかがっています。誤っている仕訳の説明など、メールでは説明しづらい場合が多々生じるなど、コミュニケーションの取りにくさを痛感した方もいるのではと思われます。

 もともとメールでのやり取りが中心だったクライアントであれば、特段不安なくコミュニケーションが取れたかもしれませんが、訪問時の会話でほぼすべて対応していたようなクライアントの場合は、意思疎通が図りにくくなっていることも考えられます。特に、企業の代表の方などは、普段からお忙しい方が多いと思われますし、訪問時であれば時間を確保してくれていたものの、訪問がなくなってしまうと、経理担当者としかやり取りができなくなってしまう場合もあったでしょう。そのような場合は、電話や短時間のビデオ会議等でも構いませんので、代表の方との連絡が取れる手段を検討したほうがよいかもしれません。
 ソーシャルディスタンスは確保しつつ、クライアントとの心理的距離は、電話やビデオ会議、メール等でなるべく縮めておくことがよいものと思われます。

クライアントに対する追加サポート

 新型コロナウイルス感染症流行の影響で収入が減少し、相次いで措置された新型コロナウイルス感染症流行に伴う特例の対象に該当するクライアントも、少なからずあるのではと思われます。税務の専門家としては、持続化給付金の申請の支援、納税猶予の申請、その他特例の適用の有無の確認など、対応すべきことが山積みとなっているものと思います。また、これらの対応については、締結済の顧問契約書中の受任業務内容には明記されていないものの、クライアントから対応することを望まれるという場面も多いのではと思われます。

 顧問契約書に記載のない業務内容を行うことは、税賠という観点からすると、一般的にリスクが高まることになります。追加で行う業務に誤りがあり、当該誤りがきっかけでトラブルが生じた場合、契約書への記載がないのだから遂行する義務はない、との主張が裁判所において認められるかどうかは、ケースバイケースと思われます。一方で、クライアントのサポートが必要な現状、当該業務を行わないという選択肢はないことも多いと思われますので、上記の認識を持ったうえで、適宜、追加の覚書などを結んだうえで当該業務を遂行するなどが重要と考えます。

リスクを認識しつつ、必要な対応は遂行

 クライアントの収入の減少や月次訪問の中止によるコミュニケーション不足が原因となって、今まで信頼関係が構築できていたクライアントと、トラブルが生じることも考えられます。また、収入が減少したクライアントにとっては、コスト感覚がよりシビアになっているかもしれません。
 このような中、例えば持続化給付金の申請が可能であったのに、当該内容をクライアントに伝えないまま申請期限が過ぎてしまった、というトラブルが起きたとしましょう。

 もちろん、一義的には申請をするかどうかを判断するのは事業者であるクライアントですから、会計事務所が一方的に責任を負う事態にはならないはずですが、少しのコミュニケーション不足が不毛な訴訟を誘発するリスクはあり得るものと思われます。
 リスクの可能性を認識し、必要なエビデンスを備えながら、クライアントの最善のためのサポート業務を遂行する、そんなバランスが求められるのが、「withコロナ」の会計事務所のあり方なのではないかと思います。

今回のポイント

・新型コロナウイルス感染症流行で重視すべきクライアントとの距離
・顧問契約書に記載のない特例などへの対応にはエビデンスを残す

 なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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執筆者

  • 窪澤 朋子

    東京共同会計事務所 コンサルティング部 
    マネージャー 
    株式会社東京共同リスクマネジメントサービス

    税務コンプライアンス業務や事業承継コンサルティングを対応しながら、前職時代に税賠に関する訴訟や交渉案件に携わった経験から、税賠予防のコンサルティングにも従事。リスク管理の視点から幅広い提案を行っている。

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