【第9回】クライアント管理をどのように行うべきか?
会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

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【第9回】クライアント管理をどのように行うべきか?<br>会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

 みなさん、こんにちは。東京共同会計事務所の窪澤と申します。
今回は、会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイントの第9回として、「クライアント管理」についてお話しさせていただきます。

※本コラムは2020年掲載の記事となります。最新の情報は専門家へお問い合わせの上ご確認いただけますと幸いです。

クライアントの情報はいろいろ

 クライアントに対しては、定期的に訪問したり、帳簿のチェックを行ったりするだけでなく、日々様々な相談を受けて、これらに対する回答を行います。「質問⇒回答」で終わることもあれば、後日、その質問が税務申告書を作成する際に必要な情報となったり、新たな提案事項やプロジェクトにつながったりすることもあります。

 税務申告に限っていえば、過去の申告書や届出書一式、申告書作成時の作業ファイル、会計データ一式があればよいかもしれませんが、何年も前の「質問⇒回答」が相続対策の提案に生きてきたり、税務調査で問合せを受けたりとなる場合もあります。このように、申告業務につながらないやり取りであっても、時系列順に保管しておいたほうが、後々細やかなアドバイスを行うことができます。

 この何気ないやり取りが、後に税賠に発展することも残念ながらしばしばあります。「たしか昔にこんなアドバイスをされたつもりだったけど?」というクライアントの思い込みは、言った、言わないの水掛け論につながりやすいですし、明らかに受任業務対象外にも拘わらず善かれと思い行ったサービスに誤りがあり損害賠償請求を受けることもあるのです。

多元的な情報の管理の方法

 顧問契約を締結しているクライアントからは、毎年の法人税申告書作成や個人の確定申告書作成を受任しているケースが多いことと思います。また、日常のやり取りの内容は、法人税申告書作成に必須の情報と、そうではない情報とに分かれます。法人税申告書の作成に必要な情報であれば、当該事業年度の申告書作業ファイルへファイリングすることになりますが、面談や電話で得た情報と申告書作業用のファイルとは、別に管理するほうがわかりやすいと思います。

 クライアント訪問時の作業内容や面談記録は、クライアント別のファイル、データフォルダ内への格納、あるいは会計事務所向けのグループウェア内のクライアント管理のツール等で永年保存するのがよいでしょう。また、メールも、PCの破損を踏まえてバックアップを取っておくなど、消去・破損等のリスクに対応出来る管理をしておくことが望ましいです。

情報の保管期間

 税賠が起きるタイミングは、直近の申告書作成に係るものだけではありません。3年前の相談に係るもの、15年前の相続対策に係るものという場合もありえます。15年前に行われたコンサルティングであったとしても、コンサルティングに関連する相続が発生したのが1年前であれば十分に税賠リスクはあるのです。
会計帳簿の保管期間は、税務上は原則として7年、会社法上も10年とされていますが、税賠リスクを考えると、クライアントとのやり取りやスキームの提案に関する資料については、7年又は10年という期間を区切って廃棄するのではなく、永年保存することが望まれます。
また、同様に、顧問契約が既に終了している場合であっても、コンサルティングに係るファイルやメールの保存を継続しておくことが望ましいということになります。

担当者交代・退職の場合の情報へのアクセス

 担当者がきちんと情報を管理していても、担当者が交代している場合、既に退職している場合などは、なかなか目的の情報にアクセスできないことがあります。
このようなことを防ぐために、ファイリングの方法やデータの保存場所は、担当者各人に任せるのではなく、事務所内・部署内で一定の方法を定め、全員で当該方法に従ったファイリング・保存を行うことが非常に重要と思われます。

 また、ファイリングや格納された情報を見てすべてが把握できることが最善ですが、場合によっては、情報にアクセスできたとしても、当時の詳細な事情までは判明しないこともあります。このような場合には、退職した元担当者へ連絡がつくかどうかで、トラブルの解決の行方が左右されます。したがって、退職者への連絡手段をきちんと確保しておくことも、トラブルが発生した場合にスムーズに対応できるコツとなります。
 私たちの業界は意外と狭い業界ですので、転職後もお互いにかかわりが生じる可能性は高いように思います。転職した元担当者に対して、円満な関係の継続、完璧な引継ぎ、そして情報のまとめを依頼できる環境にあれば、万一のことが発生しても慌てずに済むはずです。

今回のポイント

クライアント管理は、申告書作成ファイルとは分けて保管を
面談記録、メールのやり取り、作成した文書などあらゆる情報をわかりやすく保存

 なお、本稿の内容は執筆者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではありません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがあります。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではありません。個別事案の検討・推進に際しては、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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執筆者

  • 窪澤 朋子

    東京共同会計事務所 コンサルティング部 
    マネージャー 
    株式会社東京共同リスクマネジメントサービス

    税務コンプライアンス業務や事業承継コンサルティングを対応しながら、前職時代に税賠に関する訴訟や交渉案件に携わった経験から、税賠予防のコンサルティングにも従事。リスク管理の視点から幅広い提案を行っている。

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