ベトナムは、製造拠点の多様化と急成長する消費市場への参入を図る日本企業にとって、アジアで最も魅力的な外国直接投資先の一つであり続けています。
戦略的立地、若年労働力、拡大する中間層を背景として、ベトナムは長期的なビジネス成功の可能性を秘めています。
しかしながら、ベトナムで整備される法制・税制・コンプライアンス環境を適切に管理することは、特に海外から子会社を統括する親会社にとって、依然として重要な課題となっています。
本稿では、ベトナム市場進出前後に日本企業が留意すべき最新の規制変更とリスク分野について概説します。
目次
ベトナムは、外国企業のコンプライアンス義務の運営管理に影響を与える法制および税制の重要な改正を実施しています。
主な改正は下記の通りです。
ベトナム政令181号(Decree 181/2025/ND-CP)
ベトナムの顧客に対してデジタルサービス、電子商取引またはソフトウェアを提供する外国の供給業者は、ベトナムに恒久的施設を有するか否かに関わらず、現行10%VATの対象となります。
新VAT法においては、還付条件が厳格化され、500万ドンを超える課税仕入れ計上(仕入VAT控除の適用を受けようとする場合)については、非現金決済によるものであることが義務付けられます。
非現金決済とは下記のものをいいます。
① 銀行振込(ドン口座間)
② クレジットカードおよびデビットカード支払い
③ 電子決済アプリ(Momo・ZaloPay・VNPayなど)
④ 株式、債券または契約に明記されたその他手段による支払い
⑤ (社内規定に基づく)従業員立替経費の会社銀行振込による精算
ベトナム改正法人所得税法67号(Law No. 67/2025/QH15)
標準税率は20%のままとなりますが、主な改正は下記の通りです。
① 中小企業向け優遇税率(年間売上高30億ドン未満:15%、30億ドン以上500億ドン以下:17%)
② 優遇構造の転換:地理的立地ではなく、戦略的産業とプロジェクトに重点を置く
改正CIT法においても、500万ドンを超える経費の損金算入については、非現金決済によるものであること(上記1.1. 参照)が義務付けられます。
ベトナム税務当局は移転価格調査措置を強化しており、重点は下記の通りです。
① 複数年にわたる赤字会社
② 経済的実体を欠くグループ内サービス料
③ 適切なベンチマークを伴わない対外ロイヤルティ・管理料支払い
外資系企業は、ベトナム政令132号(Decree 132/2020/ND-CP)に基づき、ローカルファイル、マスターファイル、および該当する場合は国別報告書を含む、万全な移転価格文書を整備することが望ましいと考えられます。
ベトナム政令132号の主な規定は下記の通りです。
① 年間売上高が500億ドン未満であり、かつ、関連者取引総額が300億ドン
未満である。
② 納税者が税務当局と移転価格事前確認(Advance Pricing Arrangemen
t:APA)を締結し、APA年次報告書を提出している。
APA対象外の取引については、通常の移転価格申告ルールが適用される。
③ 全ての関連当事者がベトナムに居住し、同一のCIT率が適用され、かつ、
CIT優遇措置を受けていない。
④ ベトナム子会社が単純な機能のみを有し、無形資産の利用から生じる費
用または収益がなく、年間売上高は2,000億ドン未満であり、かつ、純営
業利益率(利息およびCIT控除前で、金融項目を除く。)が業種別最低率
(流通業5%、製造業10%、受託製造・加工業15%)以上である。
さらに、ベトナム政府は、2025年2月19日、政令20号(Decree 20/2025/ND-CP)を公布し、関連当事者取引を行う企業の税務執行に関する政令132号(Decree 132/2020/ND-CP)を改正しました。
主な改正点は下記の通りです。
源泉徴収方式に基づく課税となります。
FCTは、ベトナムに恒久的施設を有するか否かに関わらず、ベトナムにおいて物品またはサービスを提供する非居住外国事業者に適用されます。
FCTはVATとCIT部分から構成され、契約当事者が源泉徴収することになります。
FCTには下記3つの納付方式があります。
① 申告方式
外国契約者はVATおよびCIT申告書提出を目的として、ベトナム会計基準(Vietnamese Accounting System:VAS)を完全に採用するように登録しなければなりません。
税務コンプライアンスの観点からは、VASを採用する外国契約者とベトナム国内で設立された企業との間に差異はありません。
この方式におけるFCTは下記の通り算定されます。
イ)納付VATは、売上VATから仕入VATを差し引いた額となる。
外国契約者は仕入VAT控除を申請することができる。
ロ)納付CITは、課税所得(益金から損金を差し引いた額)に対して通常のCIT率
(20%)で算定される。
外国契約者は、この方式を採用するために一定の条件を満たす必要があります。
② 源泉徴収方式
外国契約者は、ベトナム契約相手方が課税売上高に対するみなし税率に基づき、外国契約者に対する支払額からFCT(VATおよびCIT部分)を源泉徴収し申告する義務があるため、税務当局に直接的にFCTを納付する必要はありません。
FCTのみなしVATおよびみなしCIT税率は、提供される商品またはサービスの性質により異なります。現行規制に基づくFCTのみなしVATおよびみなしCIT税率は下記の通りです。
| 事業活動の種類 | みなし VAT税率 | みなし CIT税率 | |
| 貿易 | ・商品の流通・供給 ・ベトナムにおけるサービス提供に関連する商品の流通・供給(みなし輸出入通関制度(On the spot Export and Import)の形態を含む)※2 ・ベトナムにおける商品に関するリスクを売主が負担するインコタームズ (Incoterms)に基づく商品の供給 | – ※1 | 1% |
| サービス | サービス | 5% | 5% |
| 電子商取引関連サービス | 10% | 5% | |
| レストラン・ホテル・カジノ管理サービス | 5% | 10% | |
| 機械・設備の供給を伴うサービス(契約において機械・設備とサービスの価値を分離できない場合) | 3% | 2% | |
| 保険 | 保険 | 5% または – ※3 | 5% |
| ・海外における再保険 ・再保険譲渡手数料 | – | 0.1% | |
| リース | 機械設備のリース | 5% | 5% |
| 航空機・航空機エンジンおよび 予備部品・船舶のリース (航空機および船舶はベトナムにおいて 製造できないため) | – | 2% | |
| 銀行 | デリバティブ金融サービス | – | 2% |
| 貸付利子 | – | 5% | |
| 資本投資 | 有価証券・預金証書の譲渡 | – | 0.1% |
| 石油・ガス | 石油・ガス探査・開発のための商品またはサービスの供給 | 10% または 5% | 5% |
| 掘削装置のリース | – | 5% | |
| 建設 | 材料・機械・設備の供給を伴う建設および据付 | 3% | 2% |
| 材料・機械・設備の供給を伴わない建設および据付 | 5% | 2% | |
| 運輸 | 輸送(海上・航空輸送を含む) | 3% または 0% ※4 | 2% |
| ロイヤリティ | ロイヤリティ・ライセンス料 | – または 5% ※5 | 10% |
| その他 | その他の生産活動 | 3% | 2% |
| その他の事業活動 | 2% | 2% | |
※1:商品のVATが免除されている場合、または輸入時にVATが納付されている場合、みなしVATは免除される。
※2:ベトナムにおけるサービス提供に関連する商品供給契約において、商品とサービスの価値を区分できない場合、契約総額に対してFCTの最高税率が適用される。
※3:特定種類の保険はみなしVATが免除される。
※4:国際輸送はみなしVAT税率0%が適用される。
※5:ソフトウェアライセンス、技術移転、知的財産権の移転だけはみなしVATが免除される。その他のロイヤリティ(著作権および工業所有権を含む知的財産権の使用権の移転等)はみなしVATの対象となる場合がある。
③ ハイブリッド方式
ハイブリッド方式は源泉徴収方式と申告方式を組み合わせたもので、外国契約者は申告方式に基づきVATを申告納付し、課税売上高に対するみなし税率に基づきCITを納付することができます。
ハイブリッド方式を採用しようとする外国契約者は、下記要件を満たさなければなりません。
イ)ベトナムに恒久的施設(Permanent Establishment:PE)を有している、または、
ベトナムの税務上居住者である
ロ)契約に基づき182日を超える期間ベトナムにおいて事業を行う
ハ)ベトナム財務省の会計規制および指針に従い会計記録を保管する
日本とベトナム間における二重課税リスクを軽減するため、企業は自社のベトナムにおける活動が、日本・ベトナム租税条約に基づく恒久的施設(Permanent Establishment:PE)に該当するか否かを慎重に評価しなければなりません。
PE(固定的事業所、従属的代理人、長期建設プロジェクト等)が存在する場合、ベトナム政府はそれに関連する所得に対して課税する権利を有します。
さらに、サービス対価、利子またはロイヤリティなどの支払いは、ベトナムにおいて源泉徴収税の対象となる場合がありますが、租税条約において、適切な手続きと居住者証明書が提出された場合には、軽減税率が認められています。
日本においては、一般的に、ベトナムにおいて納付された税額について外国税額控除を認められますが、それは納税者が有効な書類を提出した場合に限られます。
したがって、二重課税を回避するためには、企業は積極的にPEのリスクを評価し、適切なFCT方式を決定し、迅速に租税条約に基づく軽減税率を適用し、正確な書類を保管することが望まれます。
ベトナムにおける税務調査では、基本的な書類を整備している企業であっても、追加納税が発生することがしばしばあります。
下記に、一般的な指摘事項と最近の事例を示します。
【事例1】CITリスク – 低価格販売に対する移転価格調整
【事例2】VATリスク – 疑義のある仕入先からの仕入VAT控除の否認
ベトナムにおける最近の裁判所の判決は税務当局の決定を支持しており、下記の必要性が強調されています。
① 関連当事者取引に関する正確な文書化
② 税務処理における形式より実質優先の原則
① 移転価格文書のない関連当事者間取引
② 矛盾するまたは口頭に基づく契約条件
③ 関連会社間支払いにおける商業上の正当事由の欠如
外国親会社は、特に現地の慣行が本社の基準と異なる場合、ベトナム子会社の日常業務を監視する際にしばしば困難に直面します。
2020年、日本のプラスチックメーカーのベトナム子会社が、納税義務を軽減するためにベトナムの税関・税務局職員に賄賂を渡していたことが報じられました。
ベトナム当局は捜査を開始し、複数の税関・税務局職員を停職処分としました。
その日本親会社は内部調査を開始し、ベトナム当局に協力しました。
① 調達価格の水増しによる業者からのリベート
② 倉庫管理の不備による在庫流用
③ 会計操作および早期収益認識
④ 現金取引の多い、または分散型業務における従業員による横領
① 言語および文化的障壁によるリアルタイム監視の制限
② 現地取締役や会計士への過度の依存
③ 不定期な内部監査および事後対応型の報告体制
① 購買・支払・経理業務の分離
② 承認ワークフローと相互チェックの実施
③ 匿名通報を備えた内部通報制度の活用
④ 抜き打ち監査と財務健全性チェックの実施
⑤ 本社に対する日本語による月次または四半期報告体制の確立
RSM Vietnamは、日本企業と緊密に連携して、リスクを最小化し、業務の堅実性を高めます。
①法人設立アドバイザリー
駐在員事務所(Representative Office)、有限責任会社(Limited Liability Company)または株式会社(Joint Stock Company)の選択
②ライセンスサポート
投資許可および企業登録
③税制優遇措置申請
ハイテク、研究開発その他関連産業等に対応
④雇用契約
日本の人事慣行に沿いつつもってローカライズした労働条件の設計
①会計および給与計算アウトソーシング
月次報告および税務申告
②監査サービス
定期、年末または随時監査
③不正調査
不正調査の実施法廷会計および対応戦略
④移転価格コンプライアンス
ベンチマーキング、文書化および税務調査対応
⑤バイリンガルコミュニケーション
日本語・英語・ベトナム語による報告およびミーティング
RSM Vietnamのご紹介

Lam Le
Partner | Head of Tax and Consulting
本稿のお問合せ先
株式会社東京共同ホールディングス
事業開発企画室
TEL:080-7672-4467
Email:shozo-suehiro@tkao.com
PDF: 【ベトナム】2025年付加価値税・法人所得税法改正、移転価格税制、外国契約者税、税務調査事例、子会社の不正防止対策等
本稿はRSM Vietnamから寄稿された原稿に依拠して作成しております。本稿の内容は監修者の個人的見解であり、当事務所の公式見解ではございません。本稿に記載されている情報は一般的なものであり、必ずしも貴社の状況に対応するものではございません。記載内容の妥当性は法令等の改正により変化することがございます。本稿は具体的なアドバイスの提供を目的とするものではございません。個別事案の検討・推進に際して、貴社において何かしらの決定をする場合は、貴社の顧問税理士等、適切な専門家にご相談下さいますようお願い申し上げます。
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